黒百合 灰音の場合
――「あははっ、桐将君ヤバ」
灰音は荒ぶる東条を笑いながら、走ってきたゴブリンをノールックで撃ち殺す。
軸足で回転し、突っ込んできた獣型に一瞬で5発の弾を食らわせた。
自分の持っている武器はショットガンよりも小回りが効く。ならばやるべきことは自ずと見えてくる。
「小さくてすばしっこいのは、僕がやらないとねっ」
灰音はサブマシンガンを構え、実直に、堅実に、近づいて来るモンスターを1匹1匹確実に殺してゆく。
寸分違わず眉間に吸い込まれる銃弾。足を砕いてから脳を潰す確実性。淡々とした作業の様な殺戮は、本能のままぶっ放す東条よりも余程恐ろしい。
そして最も特筆すべきは、その殺戮のスピードにある。
「(右、左、後ろ、右、前、、左、上、後ろ、左、前、左右、くるりと回ってバンバンバン)」
1秒に1匹のペースで標的を変えるその速さは、視野が広いとかそういう次元じゃない。
まるで敵の位置が分かっているような。
「(あ、桐将君また撃ち漏らし)ぅし」
合間に東条の援護すら可能とする彼女は、事実、モンスターが次に襲う場所を正確に把握していた。
厳密には、モンスターの放つ『感情』をキャッチし、そこに高速で照準を合わせているのだ。
「……」
前方の昆虫型を蜂の巣にしながら、肩に掛けたもう1つのマシンガンの引き金に親指を当て、脇の下から銃口を出し背後の敵を殺す。
弾切れになった1つを空を飛んでいる昆虫型にぶん投げ、もう1つを肩から外す、と同時に襲って来た獣型の首にショルダーベルトを巻きつけ、角度をつけへし折った。
構え、
「……」
ゴブリンの額に穴を空きけ、
コボルトの額に穴を空け、
カブトムシの羽を千切り飛ばし落下させ、
複数の蜂の羽をズタボロにし落下させ、
グレイウルフの脚を砕き、
オルトロスの脚を吹き飛ばし、
ホブゴブリンの目を潰し膝を壊し、
クァールの後脚を潰し、
トカゲの脳天を貫き、
「――君達、声が大きすぎるよ」
戦闘不能となった部位欠損者が蠢く地面に向け、バックステップと同時に口でピンを引き抜き手榴弾を転がした。
「ギャ⁉︎――
――爆散。周りを巻き込み吹き飛んだ敵に、一息つこうとした
瞬間、
「ッ、と」
「グルルァア!」「ギャルア!」
血煙の奥から飛び出してきたワーウルフの爪を銃身を盾にガードし、数発撃って牽制、距離をとった。
「……(弾切れかぁ)」
自分の周りをゆっくりと回る2体のワーウルフを警戒しつつ、マシンガンを捨て、腰の2丁拳銃を引き抜く。
「『灰音、援護は?』」
「『ハハハ!助けてやろうか⁉︎』」
「大丈夫、ありがと2人とも。……ふぅ」
呼吸を整え、トンっトンっトンっ、とその場で軽くステップを踏む。
「……いや、ここはこっちより、桐将君みたいな、」
短いリズムが、トーンっトーンっトーンっというボクシングスタイルのリズムに変わる。
「……」
「ッギャルァッ」「ッグルァッ」
集中に目を瞑った自分に向かって、2体が同時に地を蹴った。
瞬間、
「――ッフ!」
一気に加速し、眼前の1匹に向かって突っ込む。
慌てて振り抜かれる爪を銃弾で弾き、膝スライディングで通り抜けざま脇腹に1発、
回るように立ち上がり背骨に2発、
動きを止める頭蓋に2発、
既に事切れた1体に自身の姿を一瞬隠し、後ろから迫っていたワーウルフの足の甲に向け死体の股下を通し発砲。
「ギャン⁉︎ガァッあ⁉︎」
怒り仲間の死体を殴りつけた、その影から接近。
「ガ⁉︎アギ⁉︎ギェ⁉︎ウギャ⁉︎」
腹、両肘、両膝、そして最後、ガク、と落ちた頭を、
「――ッ!」
「グギャビャ⁉︎……――」
アッパーでカチ上げると同時に、顎下から脳天へ向けて2発の鉛玉をぶち込んだ。
「フゥっ、フゥっ、はぁっ」
周りの動きが遅く見える。銃を持つ手が熱い。頬が熱い。
「はぁっ――ッッ」
駆け出した灰音は、先とは打って変わって敵に向けて過剰な鉛玉をぶち込んでゆく。
しかしそのスピードは先の数段早く、正確性は異常な程に研ぎ澄まされてゆく。
些細なきっかけをトリガーとする、特殊な意識状態。
人はこれを、ゾーンと呼ぶ。
手首のスナップだけでマガジンを飛ばし、ベルトの予備マガジンに銃を滑らせ、一瞬で装填、リロード。
一切速度を落とさず、寧ろ加速し、感覚のままに連射しまくる。
獣型の顔面に飛び蹴り脳天をぶち抜きゴブリンの鼻っ面を吹き飛ばしハイオークの股下を滑り股間を吹き飛ばし背骨と頭部をノールックで撃ち抜き腕を振り下ろしたホブゴブリンの背中をくるりと転がって通過すると同時に背骨に沿って5発の弾丸を置き土産前転で受け身を取りながらマガジンを飛ばし再装填2匹のモンスターの顎下に銃口を押し付け脳味噌の花火を打ち上げた。
「おま、何今のリロードカッコよ⁉︎」
「……ふふっ」
いつの間に隣に来ていた東条が、灰音の高速リロードに興奮。
2人は背中を合わせ、寄ってくるモンスターを片っ端から粉砕してゆく。
暴力の権化と化したショットガンが中型大型の頭部を吹き飛ばし、最早マシンガン並みの速さで連射される2丁拳銃が小型の包囲網を一掃する。
ダラダラと汗を流す2人は、それでもその顔に笑みを貼り付ける。
「っ最初からこうやって戦っとけば良かったんじゃね⁉︎ッ」
「っほんとにね!」
「『……ノエルは最初にそう言った筈』」
「「忘れた‼︎」」
「『……』」
ノエルの放った5発の榴弾が、ライン外に炎の花を咲かせた。
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