力こそ兵器
「マサ遅い」
「「⁉︎」」
外に出た2人は、頭上から聞こえた声に驚き振り返る。
そこにいたのは、半人半蛇の状態になったノエル。
カモフラージュ用のギリースーツを羽織り、隙間からこちらを見下ろしている。
「おま、大丈夫なのか?」
「大丈夫じゃない。でもこっちの方が戦える」
ゴツい機関銃をパシパシと叩く彼女に、東条は笑った。
3人は円になって座り、嵐の前の静けさの中、各々リラックスする。
「今のノエルクソ雑魚。前線出たらゴブリンに殺される」
「ああ、支援頼んだ」
「ノエルが後ろにいるなら安心だね」
「油断ダメ」
「……ふふ、分かってるよ」
灰音がノエルを抱きしめて頬擦りする。
「てか戦うのはしょうがねぇとして、その後船で逃げるのはダメなん?少なくともあの白以外は追ってこないだろ」
東条のその質問に、ノエルは後ろを向き、崖の向こう、海の方向に拳銃を放った。
ビクっ、となる2人をそのまま、放たれた銃弾は数100m先で、カンッと何かに弾かれたように落下してしまう。
「ね」
「ねじゃねぇよ!びっくりすんだろ!」
「脱出は無理かー」
3人がボケーと空を眺めていた、
……その時、遂に2人の耳にも迫り来る影の音が届き始める。2人は急いで立ち上がり、目を窄める。
「っ、来た」
「おうおう、ぞろぞろおいでなすった」
トレントの林を抜け、次々と姿を現す狂ったモンスターの大群。その数、見えている第一陣だけで100、否、200は下らない。
遠方のモンスターパレードを前に、2人はヘルメットのシールドを下ろす。
「はてさて、死ぬのは俺らかアイツらか。……恐いねぇ」
「笑いながら言われてもねー」
「こういう時こそ笑うんだよ灰音君」
「イエッサ〜」
トレントを縫い、大地を駆け抜け、先頭を突っ走ってくるのはやはり獣型、恐竜型のモンスター。
今の自分達にとって、最も脅威なのがあのスピードだ。
「……うん、やっぱあんなのに囲まれたら終わりだな」
「一瞬でムシャムシャだよ」
呑気に話す2人にノエルが溜息を吐き、懐からリモコンを取り出す。
駆け、吠え、唸り、よだれを撒き散らし近づいてくるモンスター。
東条はそんな彼らに向かって、
「……だから、ま、……早々に退場願いましょうや」
「(ポチ)」
突き立てた親指を下に向けた。
――刹那――閃光、爆裂音。草木に隠され仕掛けられた大量のクレイモア地雷が、数万の殺人鉄球をモンスター共にぶち撒けた。
魔力の無くなった小型、中型モンスターで、この破壊力に耐えられるモノなどいない。全身を蜂の巣にされ、肉片を撒き散らし血煙を上げる。
しかし、
「……来る」
その血煙を突き破って突進してくる、第一陣の生き残りと第二陣。
大型モンスター。アロサウルス、バカデカいヤシガニ、大蛇、甲虫。見たことないのもわんさかいる。
予想通りだ。目を細めたノエルは、懐から合計20個の起爆装置を取り出し地面に並べる。
奴らがラインを踏むその瞬間を、
……まだ……まだ……まだ、
見極める。
「…………今」
――刹那――大地が揺れた。
火薬を弄ったC4が、並べられた車、火薬燃料、ガソリンに引火。連鎖大爆発を引き起こし、火柱を打ち上げる。
周囲一帯が火に呑まれ、地表が吹き飛び、木っ端微塵になった大型モンスターが血の雨を降らせる。
「ハハッ‼︎現代兵器舐めんなよォラァ⁉︎」
腕を大きく広げる東条は、落ちてきたアロの生首を踏みつけ、煙の中を見つめる。
しかし、
「……ま、そう簡単にはいかねぇわな!」
煙を突き破り、屍を超え第三陣が特攻して来る。
「……これが最後のクレイモア」
ノエルがボタンを押し、第三陣を一掃する。その奥から来る第四陣。
速すぎるのもデカすぎるのも大方減った。とは言え時間が経てば遠くの地域から大型がやって来る。爆弾を仕掛ける暇はもうない、その時もし、
……っいや、今は目の前のことだけを考えろ!
「撃て撃て撃てェ‼︎」「――ッッッ」「アバババババ」
灰音とノエルがぶっ放すM61バルカン・20㎜ガトリング砲が敵をズタズタに引き裂き、東条のぶっ放すM777・155㎜榴弾砲が地面ごと敵を爆砕し肉片に変える。
弾ける肉。飛び散る血飛沫。砕け散る骨の音。モンスターの咆哮。掻き消す現代兵器の暴力。
人間の意地と、獣の狂気。今この時、最も激しい死の押し付け合いが幕を開けた。
「っマサ‼︎灰音‼︎防衛ラインは半径100mの半円‼︎トラックの列よりこっち側‼︎入って来た奴らは⁉︎」
「「――ッ皆殺しッ‼︎」」
「援護は任せろ‼︎ッ行け‼︎」
「ッヒャハハハハハッ!」「っアハハハハハ!」
高台から飛び降りた東条は、レミントンショットガンのポンプアクションを片手でこなし、モンスターの群れに自分から突っ込んでゆく。――発砲。一気に3匹の頭を吹き飛ばした。
彼に続き銃声を轟かせる灰音が、呆れたようにホブゴブリンの顔面に鉛玉を連射する。
「何でポンプアクション式なのさ⁉︎」
「他3つはフルオート選んだじゃねぇか‼︎ポンプアクションはロマンなんだよ‼︎」
「フルオートの方がカッコいいよ‼︎」
「はい戦争ですゥ‼︎ポンプアクション教敵に回しましたァ‼︎」
お互いキス出来そうな距離で振り返り、互いの背後のモンスターを銃殺する。映画で良く見るロマンチックなシーンを再現するも、
「うるっせぇ⁉︎耳壊れた‼︎」
「僕の方がヤバイよ‼︎ショットガンでやるなよぉ!」
やいのやいのと笑い合いながら銃弾を撒き散らす、絵にならない2人であった。
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