宿命の白

 


 §




 ――感じる。王の、母の鼓動を。



 ――ああ、近くに行きたい。この手で抱き締めたい。抱き寄せて、呑み込んで、食って、貪って、ぐちゃぐちゃにして、殺して、殺して、殺して、


 愛したい。



「……ギ、ギィチチチ」



 ――どこ?どこ?どこ?……上?上だ。あそこだ。見つけた。早く行こう。早く行かなきゃ。




 ――母を食べに。




 海の底。地下深く。白く濁った1つの種が目を覚ました。


 周囲の魔素を取り込み、爆発的に成長する大花。海面を突き破り、200mの高さまで到達した茎は、数百の枝の先に蕾をつけ、真っ白な花弁を花開く。


 毒々しい程に真緑な茎と、景色を切り取る程に白い花弁。その姿は見た者を釘付けにし、そして優しく食い殺す。



 海に咲いた百輪の地獄は、次の瞬間、微粒子レベルの花粉を沖縄全域にばら撒いた。




 §




「っ」


「……は?」


「……え?」


 ビーチで遊んでいた3人は、その光景に唖然とする。


 突如沖合に現れた、巨大すぎる大花。思考がバグるには充分な怪奇現象。


 しかし、アレが途轍もなくヤバい物であることは、その場の誰もが本能的に理解していた。


 東条は焦り立ち上がり、少し遠くでサグラダファミリアを建設途中のノエルに叫ぶ。


「(っ白!)っ一旦逃げるぞお前ら‼︎海上じゃ分が悪い!急げっ」


 隣に座っていた灰音を急いで引き起こそうとして、……彼女の視線に戸惑う。とても驚いた表情で、自分を見つめる灰音。


「おい、どうした⁉」


「マサくん、え、……顔、」


「顔⁉︎顔がどうし…………は?」


 自分の顔を触り、気づく。



 仮面が、ない。



 それだけじゃない。魔力が、魔法が練れない。発動しない。Cellが使えない。




 ――この時、この瞬間、沖縄全土から魔素が消失した。


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