終章 宿命の白き百合
15日目 始まりの朝
――爽やかな緑の香り。風に靡くカーテン。細波の音。窓から降り注ぐ太陽が、彼女のまぶたをくすぐる。
「……ん、ぅん」
「おは」
「……おはよ、ノエル」
灰音は覗き込んでくるノエルの頬を撫でる。その手には、傷ひとつ、痛みひとつ残ってはいなかった。
「ありがと、ノエル」
「ん。傷物にはさせない」
「ふふ、……どの口が言うっ」
「わぷ」
ベッドの上で、ゴロゴロとじゃれあう2人。お昼前の陽気な光が差すその聖域に、ノックが響いた。
「入るぞ?」
「あ、うん。おはよ」
「はよ。体調は?飯食えるか?」
「うん。大丈夫。……寧ろ昨日より良いかも」
灰音は自分の腕に魔力を纏わせる。
「レベルアップだ、おめ。飯出来てるからリビング来な」
「「はーい」」
席に着き、積み上げられたミノステーキを囲む。
「……朝からステーキって。一昨日も吐く程食べたのに」
「お前のために狩ってきたんだぞ?病み上がりなんだから精がつくもん食わねぇと」
「それは、ありがと?」
「いただきます!」
「おう食え食え」
モリモリと頬張るノエルに、灰音は思わず吹き出す。
「っぷふ。僕もいただきまーす」
「急げ急げ、早く食わねぇと全部無くなっちまう」
東条とノエルが特大ステーキを引っ張り合う光景に、灰音はお腹を抱えて笑った。
「ありがと。ご飯作ってくれて」
丸くなったノエルの横で、2人は食後のコーヒーとお菓子で口直しをする。
「ぶっ殺して切って焼いただけだけどな」
「ねー。ちゃんと料理教えた筈なんだけどなー?」
「お前が作ってくれる生活に慣れちまった俺がいる」
「ははっ、僕は君のお母さんかい?」
「そこは妻だろ」
「っ、……君さぁ」
灰音のジト目を東条が笑う。
「あまり女心を弄ばないでくれる?」
「そんなつもりはねぇんだけど?」
「なら天性のクズだ」
「言うねぇ」
2人でクスりと笑う。とそこで消化を終えたノエルが跳ね起きる。
「海行く!」
「情緒どうなってんだお前?」
水着に着替えるノエルに、灰音もカップを置く。
「よーし。何する?」
「砂でサグラダファミリア作る」
「あははっ、いいね」
「……はぁ」
本物ですらまだ完成していないと言うのに。東条はグダグダしていたい気持ちを胸に、微笑みながら立ち上がった。
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