4章 灰の少女

泡沫の白

 



 ――日も落ちてきた頃、先に行きたがらないシーサー達に手を振り、東条とノエルは宮古島へ渡るべく、地続きの道へ車で踏み込んだ。


 ――プレートの変動でか、本来海底だった場所が隆起して出来た道。


 ――陸に適応した海洋性の珊瑚型トレント。


 ――風に靡くワカメの群生林。


 ――泥の混じった白砂を巻き上げる車輪に、小型モンスター達が散ってゆく。


 ――その不思議な景観に2人も口を開け、軽快なエンジン音を響かせ先に進む。


 ――南下すればする程、モンスターの数は減っていった。


 ――道中で一夜を明かすことにした東条とノエルは、小動物を捕まえ火を起こした。


 ――宵闇の中、天の星々と淡く発光する珊瑚が、2人の談笑に花を添える。


 ――翌日再び出発し、植生が陸に戻ってきた頃、モンスターの影は全く無くなっていた。



「……ノエルー、着いたぞ〜」


「ん〜」


 運転を代わっていた東条は、車を止め、横で丸くなるノエルをゆする。


 ドアを開け、浅瀬に足を下ろす。


 耳を打つ、心地良いリズム。


 寝ぼけ眼だったノエルの目が、ぱっ、と開かれた。


「わー、わー!」


 初めてみる沖縄のビーチに、興奮する彼女はピチャピチャと足踏みし、


「っ」


 しかし勢いよく目を閉じ耳を塞いだ。


「何やってんだお前?」


 怪訝な顔をする東条。


「マサ!マサ!」


「どした」


「マズい!このままじゃノエルこのビーチで満足しちゃう!この興奮は東洋1のビーチに取っとく!」


「ぷっはっはっ、なんだそりゃ」


 焦ったようにパチャパチャ足踏みをする幼女を、東条は腹を抱えて笑う。

 子供特有のこだわりってやつだろうか。こういう時だけ年相応が出てくんだから可愛いもんだ。


「マサ雷装して!与那覇前浜連れてって!早く!」


「しゃーねーな」


 たく、あの武装を何だと思ってんだこのワガママガールは。


 東条はノエルを背負い、脚部だけ雷装化、ノエル含め上半身を漆黒で覆った。


 沖縄に来てから他のビーチを我慢してまで、ずっと楽しみにしてたんだ。お願い事1つくらいなら聞いてやろうじゃないか。


 盛大に弾ける砂浜と雷鳴を残し、東条は一呼吸で島を横断した。













 ――緑色の木陰から目を窄め、照り差す太陽の下に顔を出す。



 ――恐る恐る踏み出す小さな足を受け止めるのは、温かく柔らかなパウダーサンド。



 ――顔を上げれば、光に照らされ、眩しい程に輝く純白の砂浜が広がっている。



 ――パステル、アクア、スパルタ、ブルーと変わってゆく海のグラデーション。



 ――静寂の中に響く細波の音色。



 ――戯れるように揺れる波が、足の甲へと砂をかけてくる。



 ――傲岸不遜な大地は、


 今日この時、今この瞬間、




 ――海の美しさを知った――




 キラキラと乱反射する水飛沫は、汚れを知らない白に添えられる最高の髪飾り。


 透き通った屈託のない笑みは、青い空、青い海に送られる最高の賛辞。


 美しすぎる、故に儚いその絵画の様な光景は、まさに泡沫うたかた



 白砂に腰を下ろす東条は、波間を走り回る彼女に頬を緩めた。

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