余韻

 



「あははははっ」


 限界に達し砕け散る結界の中、爆笑しながら生身で落下する東条を、


「ぅお、ありがとなっ」


「バウッ!」


 ジャンプしたボスシーサーがフカフカの体毛で受け止め、焼け焦げハゲ散らかした大地に着地した。


 東条はその背からおり、集まってくるシーサー達に顔を舐め回されながら頭を掻く。


「おぉ〜……ヤッベェな!」


 東条は自分で作り上げた惨状を見回し、タハ!とおでこを叩いた。

 ちょっとやっちまった感が否めないが、まぁしゃーなし!ビバSDGs!


「お前らもよく頑張ったなー、よしよし、タイミングバッチしだったぜ?」


「バウバウ!」「がうぅルルル」「ワフ!」「ワフバウ!」


 尻尾を振るシーサー達の身体には、痛々しい生傷がびっしりとついている。


 彼らは東条からの、温存しておけ、という命令を律儀に守り、最後の最後までなるべく魔力を温存しながら戦っていたのだ。

 もし彼らの結界がなければ、被害範囲は森の一角では済まなかっただろうし、ノエルを巻き込みお叱りを食らっていただろう。


「ははは、くすぐったいって」


「わふぅ!」


 しかしシーサー達もまた、結果的に東条の命令に救われた形になる。

 もし魔力を温存せず戦っていたなら、テンションがイカれた先の1撃で、敵味方関係なく諸共仲良く塵と化していたのだから。


 この平和な最後は、なんやかんや全てが良い感じに噛み合った結果なのである。


「おおノエル!ちょ、じゃまっ」


 呆れた顔で歩いてくるノエルを見た東条は、シーサー達を押し分け毛玉から脱出する。


「あはははは、お〜い」


 見たかこの威力!凄いだろ!褒めろ!笑顔で手を振りながら駆け寄り、


「オルぁッ」


 振り抜いた拳は、しかしヒョイ、と躱された。


「テメェエグい範囲攻撃しやがって⁉︎結構危なかったぞオイ⁉︎」


「お互い様」


「あんの毒のせいだろ⁉︎何混ぜやがった⁉︎」


「……何それこわ」


「ぁあ⁉︎一番怖いんですけど⁉︎」


 ノエルは振り回される結構マジな拳を、ヒョイヒョイと躱しながら楽しそうに逃げ回る。

 そんな光景をお座りしながら見つめるシーサー。


 追いかけ回していた東条も観念し、その場にぶっ倒れた。


「はぁ、はぁ、あったま痛ぇ!」


『阿修羅』に合体技、『雷装』、新技の連続使用。以前よりも格段に魔力量が増えたとは言え、流石に1度に使いすぎた。


「疲れたなぁ〜」


「ん。楽しかった」


 隣に座り満足気に笑うノエルに、東条も思わず笑ってしまう。子供の体力は無限大とはよく言ったものだ。


「そー言えばマサ」


 ノエルが目を細める。


「ん?」


「ノエルから10m以上離れた」


「は?」


 東条の頭に?が浮かぶ。……何言ってんだこいつ?


「ヘラっちゃう」


「まだ続いてたのその設定⁉︎」


 驚く東条に驚くシーサー。


「てか先に離れたのお前じゃねーか⁉︎めっちゃ楽しそうに剣振り回してたろ⁉︎」


「酷い、マサのこと守ってたのに」


「だから毒撒き散らしたよね君⁉︎」


「むー、しつこい」


「っ(ほんっまに1回しばいたろかコイツっ)」


 ビキビキと青筋を浮かべる東条に、小さな木製のコップが渡される。中には薄緑色の液体。


「飲み」


「何これ、ポーション?」


「ノエル水」


「犯罪臭増すからやめろ」


 東条はコップを傾け、ノエル水なる物を一気に飲み干した。

 さっき塗られた物より粘り気が無く、甘く飲みやすい。経口接種用のポーションと言った感じか。


「んー、確かにちょっと身体軽くなったか?」


「傷の治りは塗り薬の方が早いけど、魔力回復の効果少しあり」


「おー」


 東条とノエルは焼けた地面にゴロン、と寝っ転がり、空を泳ぐ雲をほけー、と見つめる。



「……今、マサの中にノエルがいる」


「……お前マジでやめろ」


「……バウ」



 まねをして仰向けに寝っ転がるシーサー達と一緒に、2人は少しだけ休憩するのだった。


 鼻を抜けてゆく勝利の余韻は、煤と潮の香りがした。

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