みんな大好きスピノサウルス
「ゴォァアッ――ッ⁉︎」――タンッ――「キョォァアッ――ッ⁉︎」
静寂の隙間を叩く軽い音。砂煙を揺らし、東条とノエルの姿が掻き消えた。
反射的に大きく飛び退いたT−REXとスピノの間を、突風が交差する。
「チッ」
まさかこの速度にも反応するとは。
躱された瞬間、T−REXを標的に向きを変える東条に、
「――ん」
「――っkッ」
ノエルが目配せで合図を送る。
東条がビーストを解除。
「ゴ、ァ⁉︎」
巨大な漆黒の球体に閉じ込められるT−REX。
瞬きも要さない意思疎通。既に2人の眼光はスピノへ向いていた。
「――ッキ⁉︎」
スピノは瞬時に理解する。速い、仲間が足止めされた、この距離を、決して詰められてはならない。――来るッ。
「――ョロロロロァアアッッ‼︎」
2人が地面を蹴り抜くと同時に、スピノはヒレを大きく発光させ、顔面を地面に突っ込んだ。
何を、そんな2人の思考を置き去りに、大地が青く発光。
――瞬間、
「「っ」」
2人の足元を貫き、天高くレーザーが打ち上がった。
不規則に、加速度的に増えてゆく致命の噴泉。これを捌けた生物など、未だ嘗て王以外に……、
「……?」
暗い地面の中、感知を研ぎ澄ませるスピノは戸惑った。
……鳴り止まない。足音が鳴り止まないのだ。それどころか、加速している。近づいている。
暗闇。足音。見えない敵。
途轍もない恐怖に、
「――キッ、キュロ、キュロッ」
スピノは顔を上げ、攻撃を中断してしまった。
――靡く白い残光。明滅する白雷。
目で追うことすら困難な、死神の足跡。
噴泉の隙間を縫う白線は、瞬く間にスピノへとその鎌を伸ばす。
「――」「――」
右、斜め左、左、下、斜め右、下、左、右、右、下、左――
攻撃を知覚して、更に一考してから躱すことが出来てしまう。高すぎる身体能力が可能にする、擬似的未来予測。
今の東条とノエルには、お互い以外の全ての動きがスローに見えている。
体勢を限界まで低くしたノエルが一気に加速する。その両手に、30㎝程の歪な杭を生み出して。
「っキョ?」
スピノの腹の下に潜り込んだノエルは、通り抜けざま杭を投げ腹に突き刺した。しかし大したダメージは無し。
――スピノがレーザーを放つため口を開く。
――ノエルが両手一杯の杭を空中にぶん投げばら撒く。
直後、
「っキョ⁉︎」
全ての杭がスピノの全身にぶっ刺さるのとほぼ同時に、東条が勢い余って地面を滑りながら静止した。
「これでいいか?」
「ん」
遅れてスピノは理解する。
この人間が、空中に漂っていた全ての杭を殴り、蹴り、投げ、自分に突き刺したのだと。それもあの一瞬で。
しかしこれはチャンスだ。敵の攻撃は自分の命に届いていない。加えて敵が同じ場所に固まっている。この機を、逃すわけにはいかない!
スピノの口の中に、過去最大のレーザーが装填され、
――発射。……する刹那、スピノの脳裏に疑問が浮かんだ。
そういえば、なぜ奴らは後ろを向いている?
なぜ、自分から目を逸らしている?
まるで、既に終わって――
スピノの思考は、そこで永遠に途切れた。
「『
ノエルの合図と同時に、スピノに刺さった全ての杭が皮を、肉を、骨を食い破り、綺麗な真紫色の花を咲かせた。
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