23話
4者同時に地面を蹴る。
T−REXの頭突きと東条の拳がぶつかり、スピノの尾とノエルの蹴りがぶつかる。
よろめくT−REX。
右腕の装甲が消し飛んだ東条。
スピノが尾でノエルの足を絡め取り、地面に叩きつけ――
東条が地面に漆黒を展開、衝撃を全て吸収。
ノエルがcellを発動。周囲の大地が剣山と化し2匹に襲い掛かる。
尾を離したスピノは跳躍と同時にレーザーを放ち相殺、離脱。
T−REXの爆炎放射、一瞬にして剣山が溶解。
風景を消し飛ばす爆炎に、2人の眼前が赤一色となる。
「……」
東条の全身の漆黒が霧散。炎が2人を呑み込んだ。
否。
その中で疾走する2人を守る、T−REX直通の漆黒のトンネル。
ノエルが地面をタップ、T−REXの背後に巨大なゴーレムが出現。
「ゴォオッ‼︎」
一撃で破壊され――1歩踏み込みんだ東条の脚に漆黒が収縮、トンネルが消滅すると同時に、
「――ッッ‼︎」
「ッォゴァ⁉︎」
T−REXのどてっ腹に、ロケット砲の如く飛び出した東条の飛び蹴りが炸裂した。
ぶっ飛ぶT−REX。
着地寸前の東「キョロロロッッ‼︎」「っ」
条をスピノが前足で地面に叩き落とし、押し込み、大地が放射状にひび割れる。
顎を大きく開くスピ「っギョェ⁉︎」
ノの首にノエルが踵落としを叩き込む。
上くの字に曲がったスピノから放たれたレーザーが雲を貫いた。
続く前足の下からの衝撃波にスピノの体勢が崩れ――
「――シィッ‼︎」
飛び起きた東条が渾身の回し蹴り――インパクト。
鱗を砕き肉を抉り脇腹に深くめり込んだ一撃に、スピノは身体をくの字に曲げ、巨大トレントごと民家を吹き飛ばしぶっ飛んでいく。
直後、
「「――っ‼︎」」「――ォオオオゴォアアアアアッッッ‼︎‼︎」
大跳躍していたT−REXが爆風で推進力を生み出し、巨大な火炎弾となって天から降ってきた。
東条はノエルの前に立ち、全力の防御を展開、受け止める。
同時にノエルが大地をうねらせ、数本の長剣を生成、硬化、串刺しにすべく腕を振った。
――刹那、
「っなッ⁉︎――」「⁉︎クっ――」
大――爆――発。
剣がT−REXの鱗に触れた瞬間、閃光、爆炎。周囲から色が消え、轟音が空気を揺らした。
半径100m近辺は更地と化し、焼け爛れる圧倒的熱量。
その威力、正に隕石。
「――っだはっ、ありゃぁヤベェ!」
「けほっ、……相性わる」
東条は瓦礫を押し除け、抱き寄せていたノエルを離す。
「マサ大丈夫?」
「屁でもねぇよ」
無傷のノエルとは反対に、東条の身体には少なくない火傷痕が刻まれていた。
背負っていたリュックもボロボロに消し飛んでいる。
しかし彼は、だからどうしたと漆黒を修復し纏い直す。
火傷なんて最早慣れ飽きた。この男にとっては、手足が飛んでからが怪我だ。
「後でノエルが作った薬塗ってあげる」
「……それ安全だろうな?」
「どうなるか経過観察したい」
「はい却下します」
軽口を叩く2人を、再び並んだ2匹が睨みつける。
口から血を垂らすスピノが、目を完全に怒りに染め、鱗を逆立たせながら。
轟々と炎上するT−REXが、鱗を絶えず小爆破させながら。
どうやらやっこさん、ここからが本気なようだ。
東条とノエルも立ち上がり、正面から堂々と相手を見据える。
おふざけ半分、本気半分。それがいつもの彼らスタイル。
有象無象相手なら、別に今回もそれで良かった。
適当にコンビネーションを試して、楽しかったねで終わり。
でも強かった。2匹はちゃんと強かった。
この2匹なら、少しは保つかもしれない。
だから彼らは、本気メーターをちょっとだけ上げたのだ。
「マサも出来たんだ」
「俺は日々成長してんだよ」
2人の身体強化が密度を増し、周囲の魔素が震えぶつかり始める。
バチバチと電流が走っているように見える、特異な現象。
それは逢魔戦で藜が見せた、魔法という分野の1種の極み。頂きの形である。
ほんの1秒、ほんの瞬きでも制御をミスれば、自信の細胞すら焼き焦がす諸刃の剣。
身体強化、身体強化『輪廻』、に続く、最後で、最強の無属性魔法。
『ビースト』の漆黒の身体に、白い模様が浮かび上がる。
ノエルの髪がブワッと踊り、瞳は縦に割れ、周囲にバチバチと白雷が瞬く。
名称を、――身体強化『阿修羅』
三面六臂の戦闘神は、よりによって史上最も自己中心的な2人に、過剰なんて言葉じゃ生ぬるい破壊の力を授けてしまった。
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