14話

 


 ――城の赤とトレントの緑。景色の中に美しいコントラストを生み出すその空間は、まるで手入れがされているかのように綺麗な状態が保たれていた。


 場所は首里城跡。沖縄本島に残る世界遺産だ。


「人いるのか?」


「んー、……んー?」


「……なんか見られてんな」


 2人は入口で足を止め、影から此方を見ているソレを待つ。


 そして数秒後、茂みや室内、屋根の上など様々な場所から現れたのは、


「ワフっ」


 大きな口に大きな目。炎の様に真っ赤な揺れるタテガミ。嘗ては沖縄の至る所に立っていた、島の守り神。


「あれ、シーサーじゃね?」


「シーサーじゃね?」


 シーサーであった。


 ぞろぞろと集まってきたシーサーは、鼻をひくつかせ、恐る恐る2人の周りを回る。


 東条は膝を付き、ゆっくりとその1匹に手を伸ばした。


「よーしよし、怖くないぞ〜」


 すると、


「……ワフ」


「お、おお!」


 まるで人懐こい犬のように、シーサーは彼の手に鼻を擦り付けたのだ。これには東条も驚きである。


「バフワフっ」


「あっはっ、モフモフだはっ」


 次々と東条の周りに集まってくるシーサー達に、ノエルも羨ましくなり手を伸ばしてみる。


「犬〜」


「「「――ッ、ワフルルル……」


「……」


 しかし結果は猫の時と同じ。一瞬で距離を取られ、警戒、というか怯えられてしまった。


 彼女の悔しそうな表情を指差し、東条は笑う。


「ぶはっ、お前動物に嫌われすぎだろ?」


「……うるさい」


「やっぱ分かるんだよ。心の綺麗さが」


「ドブに溜まったヘドロみたいな心してるマサに言われたくない」


「言い過ぎだろ」


 いくら何でもそこまで汚くはない筈だ。ドブはドブでも上澄みの方だと思うのだ。


 東条は不貞腐れるノエルの手を引き、シーサー達と首里城を回る。


 最初は彼女の覇気に震えていたシーサー達だったが、触れ合う内に大丈夫だと分かったのか、最後はその背に乗せて走り回るくらいには仲良くなってくれた。


 そして敷地を回る中で分かったことが1つ。


 シーサーは道に落ちている枝や落ち葉を拾い、屋根についた埃を舐め取っていた。


 要するにこの綺麗さは、彼らの自主的な行動によるものだったわけだ。


「綺麗好きなんかな」


「ん」


 ノエルの投げた枝を、数10匹のシーサーが追いかけ取り合っている。こうして見ると、本当にただの犬にしか見えない。


「……こんだけ人慣れしてるってことはよ、」


「ん。ちゃんとここには人がいた」


 いくら人懐っこいとは言え、野生の、それもモンスターがいきなり鼻を擦り付け、急所である腹を見せたりはしないだろう。


 今のところ人間に唯一友好的な湯煙ラッコですら、最初は気配を消していたのだ。


 屋根の上から森を見渡す東条は、シーサーのフサフサの体毛をわしゃわしゃと掻き撫で回す。


 よく見れば、毛の下に隠れるその肌は傷だらけだった。


 とその時、


「ん?」


 東条の目が、敷地外に小さな土煙を捉えた。


 遠方から、何かが此方へ向けて全速力で駆けてくる。


 同時にシーサー達の耳がピクリと反応し、彼らは一斉に首をもたげた。

 そして怒りの表情を浮かべ、バタバタガウガウと走って行く。


「マサ?」


 ノエルは手で望遠鏡を作っている東条を見上げる。


「あー、木に隠れてよく見えねぇけど、恐竜だな。……ん?あの牙、肉食っぽいぞ」


 木の隙間から見えた、ずらりと並んだ鋭利な光。あれはどう見ても草を食む為の物ではない。


 その報告を聞き、ノエルがピョンピョンと飛び跳ねる。


「行こ!」


「よし来た」


 屋根から飛び降りた東条は、急いでシーサー達が向かった方向へと走るのだった。

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