2話

 


「本当にここでよろしいので?」


 機長は自動操縦に切り替え、後部座席に顔を向ける。


 その視線の先には、


「ええ、問題ないです」


 サングラスをクイ、と上げはにかむ、白いサーフパンツ型の水着に着替えた、全身傷だらけムキムキゴリラ


 と、


「わくわく!わくわく!」


 可愛いフリルが揺れる黒いワンピース水着に着替え、肩からは防水ポーチを引っさげ、腰には浮き輪、顔にはシュノーケルを装着したロリロリヘビ。


 2人の観光地にでも行くかのようなテンションに、思わず機長も乾いた笑みを浮かべてしまう。

 ……この下には、想像を絶する危険地帯が広がっていると言うのに。


 機長はボタンを押し、エントリードアを開錠する。


 ゴォッ!


「むぉっ」


 一気に吹き込む突風に、ノエルの純白の髪が舞い踊った。


「ハハっ」


 眼下には真っ白な雲の海、手を伸ばせば届きそうな太陽に、東条はサングラスを下ろす。


 ここは高度10000m、モンスターすらいない空のド真ん中だ。


 機長は席を立ち、2人に向き直る。


「では御2方っ!、3週間後にこの真下で!」


「はい!こちらこそ運転名乗り出てくれて有難うございますっ!」


「いえいえ!少しでもお力になりたくて!それに着陸するつもりでいたのにっ、雲の上で下ろすことになるとは思いませんでしたよ!」


 機長と笑い合う東条の水着が、ノエルに引っ張られる。


「マサっ、早く!早く!」


「分かった分かった」


 シュコー、シュコーと興奮しながらシュノーケルを鳴らす彼女を、東条は脇に抱える。


「では!うちのベーダー卿もこう言ってますので!」


「ハッ!ご武運を‼︎」


 機長の敬礼を見届けた東条は、1度大きく後ろに下がり、


 そして、


「――っぃいヤッホォオオッッ‼︎」

「ファアアアアアアアアアッッ‼︎」


 晴天の中へと、思いっきり飛び出した。


 一瞬の浮遊感、次いで急速な落下が始まる。


「アッヒャッハッハッ‼︎」

「アハハハハハハハッ‼︎」


 雲をぶち抜き眼下に現れるは、広大な緑、それを囲む、美しく、神秘的なエメラルドグリーンの海。


 手付かずの大自然が孕むのは、心休まる休息か、はたまた死か。


 否。関係なし。

 そのどちらもが、2人の前では最高の娯楽と化すのだから。


 そこは日本屈指の観光地。



「「――ッ来たぜぇ‼︎」」



 弱者の淘汰された、伏魔殿である。



「「ッッ沖縄ァアアッ‼︎‼︎」」



 爆撃の如き水飛沫を上げ、2匹の怪物が南国へと着水した。

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