加藤&毒島一行

 


「マサさんは、やっぱり凄いですねぇ」


「ンゴォ」「ピャア」


 建設途中の巨大施設の中、加藤はスマホを閉じ、しみじみと感嘆する。


 特区で一人生き残り、怯えていた頃は、その先の事なんてとても考えられなかった。


 次の瞬間には死んでいるかもしれない状況で、明日の事を考える余裕なんてなかった。


 しかしそんな中で、マサさんとノエルさんは笑いながら旅をしていた。


 当時は驚いたが、こうして生き残った今、その時に感じた感情は羨望だったと分かった。


 自分の好きな事にとことんひた向きで、困難は持てる力の全てで捻じ伏せる。


 そんな生き方が、とても眩しく見えたのだ。


「おや、君達、親方さんが来ますよ?」


「げっ」「ヤベェ」「逃げるぞ大将!」


 私の元で一緒に配信を見ていた毒島君達が、探しに来た親方を目にしてに慌てて走り出す。


 一緒に特区から脱出した彼らは今、大工の卵として親方の元で修行中なのだそうだ。


 今の世界、大工の需要は跳ね上がっている。


 時には危険区域にも赴かなければいけない特別な大工には、当然ながら相応の戦闘技術、生存力が要求され、調査員と比べても手練れ揃いと有名なのである。


 職場では常時鉄骨が空を飛んでいる。


 そんな筋肉達を統べる親方が、生優しい人間である筈がないのだ。


「――っテメェらんなとこで何してやがるッ⁉︎」


 彼らを発見した親方が、鬼の形相で迫ってくる。


「クソ、見つかった!」


「カオナシの配信見てたんすよ‼︎」


「何⁉︎それは俺も見た‼︎凄かったな‼︎」


「え!親方も見てたんすか?」


「っバカ、止まるな!」


 安心した舎弟の1人が、親方の拳骨で彼方まで吹っ飛んで行く。


「俺は良いがテメェらはダメだ‼︎拳骨1発‼︎」


「死んじまうよ‼︎」


「愛の鞭だ‼︎死んだら己を恨め‼︎」


「っ恨み殺すぞクソジジ――



 悲鳴が静まった後、拳を血に染めた親方が私に頭を下げる。


「すいやせん加藤さん、うちの馬鹿共が。急ピッチで進めやすんで」


「いえいえ、安全第一でお願いしますよ。私も手伝いますんで」


「かたじけねぇ」


 私はタオルを頭に巻き、座っていた鉄骨の塊を持ち上げる。


 実はこの施設、私が1から関わった新しい水族館なのです。


 1番のポイントは湯煙ラッコ達と一緒に入る温泉施設です。


 え?水族館と関係ないって?

 まぁ、彼らも水生生物ですし、良いじゃないですか。


 正直なところ、私の懐事情では建設は難しかったのですが、生物学者や研究者とも協力する旨を伝えると、皆さん喜んでお金を貸してくれました。


 マサさんやノエルさんが前を向いてひた進む様に、


「さぁ、行きますよ」


「ンゴォ!」「ピャ!」


 私も夢の為に頑張るのです。

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