風代&猫目


 とある高校では、授業中にも関わらず先生含めクラス全員が、スマホ片手に固唾を飲んで1つの配信を見ていた。

 あるクラスなんてスクリーンを下ろして大画面で上映会を始める始末だ。


 そして唐突に訪れる、ブラックアウト。


「は?」  「おい何だよ今の⁉︎」  「先生⁉︎」  「いや、機械の問題じゃない。配信が終わったんだ」  「嘘でしょ!カオナシ様⁉︎大丈夫なの⁉︎」  「逃げてノエルたん‼︎」


「――ッ」


「っおい猫目⁉︎」


 教室を飛び出し廊下を駆ける猫目は、別のクラスから同じように飛び出して来る1人の生徒を見つけ駆け寄る。


「猫目ちゃん!」


「涼音っ」


 スマホを握りしめる風代は、嫌な汗をダラダラと垂らし、心底心配そうな顔を浮かべていた。きっと何度も電話を掛けたのだろう。


 猫目は思う。

 他の人間が興奮する戦闘シーンも、彼女から見れば、好きな人が傷ついてゆく苦痛にしか映らないだろう。


 それに、最強だと思っていたマサさんが、あそこまで深手を負うのを見るのなんて初めてで、自分も汗が止まらないのだ。


「猫目ちゃん、私今から大阪行く」


「は⁉︎」


 走り出す風代に、猫目が慌てて付いて行く。


「流石にヤバいって!」


「嫌だっ、行く!」


「っ……」


 初めて見る風代の表情に、猫目も口を開けなくなってしまう。


「っここで行かなきゃ、私はもうマサさんに近づけなくなっちゃうっ」


「……」


「私に出来る事なんて少ないし、隣にいる事も出来ないけどっ、――っせめて傷ついた時くらいは、駆け付けてあげられる女になりたいのっ‼︎」


 ここまで真剣で、強い瞳を浮かべる彼女を、猫目は見たことが無かった。


 カッコよくて、美しくて、切ない程に、純情!


「ハハっ!」


「っ猫目ちゃん?」


「あたしも行くっす!」


「っいいの?」


「んニャア!でも、多分、2人は大阪に留まらない気がするっす」


「え⁉︎あんな重傷なのに⁉︎」


「骨折にマキロン塗るような人っすよ?あたしらの価値観は捨てた方がいいっす。それにあんな大規模な戦闘、すぐに報道陣が集うっす」


「確かに。あの2人はそういうのが一番嫌いだし、」


「確か次に行くのは」


「「四国」っす」


「なら狙うは」


「「徳島‼︎」」


 ロビーを駆け抜ける2人を、通りがかった教師がギョッとした目で見る。


「え⁉︎猫目さん⁉︎風代さん⁉︎」


「早退します‼︎」「早退するっす‼︎」


「は⁉︎」


 高校生の身体能力を超えた速度で走って行く2人を、教師は只々見送るしかなかった。

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