10話

 

 山を削り造り出された、約九十haヘクタールの広大な敷地。

 東京ドーム二十個を収納出来るその施設には、グラウンドが三つ、総合体育館、プール、居住区域、トレーニングジム、食堂、会議室、おおよそ思い付く限りの公共施設が、全て揃っている。


 そして今、機械音を響かせ開く大きな門から、受験者達を乗せたバスが列を成して入って来た。


 その一つから降りる、東条一行。周りの者同様、彼等も事前に渡されていた受験番号に従って、指定された部屋へと歩を進める。


 しかしやはり、フードを外した二人は注目の的となる。


「はっはっは、勝手に道が出来るぜ」


「ノエルは人気。視線が集まるのも仕方ない」


「自分で言うかねー」


「……俺等居心地悪いんですけど」


 苦言を言う朧に、東条は笑う。

 周りを見れば、絶世のロリにサインを貰おうとして牽制し合っている者や、携帯で彼女を写メろうとしている輩も多い。


 自分で言うのも何だが、いやはや、有名になったもんだ。


「「「「――っ」」」」


 だからと言って、目の前でコソコソされるのは好まない。

 撮るなら自分に気付かれず、もしくは堂々と撮りに来い。


 そんな気持ちを胸に、彼は魔力をお漏らししながら歩くのだった。



 ――「えー、それでは、これよりペーパーテストを始めます。簡単な検査のようなものですので、気を張らずにお受け下さい。では、始め」


 試験官の合図に合わせ、部屋に紙を捲る音が響く。


 東条も彼等に続き、どんな質問がされているのかざっと目を通した。


 ・モンスターに襲われた。周りには戦えない人がいる。どうするか?

(とりあえず様子見。勝てそうなら狩る)


 ・子供、男性、女性、老人、貴方が真っ先に手を伸ばすのは?

(近くにいる人)


 ・危険区域に入って、一番最初にやる事は?

(……動画撮影?何だこれ分からん)


 ・危険区域で睡眠をとるなら、何処を選ぶ?

(トレントの上だろ。これは分かる)


 ・戦闘で傷を負ってしまった。周りに仲間はいない。どうするか?

(消毒してからモンスターを殺して治す)


 見た感じ、SPIや人格検査に似たテストっぽい。そこに危険区域特有の問題がちょくちょくある感じだ。


 一般人の救助を最優先―とか、心にもない綺麗事を書いたところで受かるわけではないだろうし、まぁ気楽にやっていこう。


 周りが必死に頭を悩ませる中、東条はさっさと答えを書いていくのだった。


 ――一時間後


「マサ、楽しかった。見て見て」


「こういうのはあんま人に見せちゃいけないんだぞ」


「何で?」


「……まいいか。どれどれ」


 ・モンスターに襲われた。周りには戦えない人がいる。どうするか?

 どうもしない


 ・子供、男性、女性、老人、貴方が真っ先に手を伸ばすのは?

 契約した人


 ・危険区域に入って、一番最初にやる事は?

 動画撮影


 ・危険区域で睡眠をとるなら、何処を選ぶ?

 マサのcell


 ・戦闘で傷を負ってしまった。周りに仲間はいない。どうするか?

 ノエルは傷を負わない


「……お前、問題の意図ちょっとは汲み取ってやろうぜ」


 あんまりな回答の数々に、流石に質問者が可哀想になってくる。


「マサのも見せて」


「いや、だからね」


「あの〜、申し訳ございません、」


 東条が彼女と戯れていると、隣から試験官が用紙の回収に来た。


「お互いに回答を見せ合うのは、ちょっと」


「何で?」


「え、いや、えっと」


「あはい、すみません。ほれ、次は魔力検査だ。行くぞ」


「ん」


 汗汗と回収する試験官に頭を下げ、東条はノエルを抱えその場を後にするのだった

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