7話
§
会議が開かれたその日、全国に向けて資格取得試験の開催が宣言された。
『全日本危険区域調査組合』
当組合設立は、見方を変えれば、一般人を未開の死地に送り込むという制度。
国の粗探しに躍起になる一部界隈は、ここぞとばかりに上層部を叩いた。
しかしそんな否定的な意見も、その一般人達の声によって、一瞬で埋もれ潰され姿を消した。
何故か?……簡単だ。
この場所を何処と心得る?
世界屈指の文化大国、日本であるぞ?
誰が、何が、この国を支えていると思っている?
リアルから身を引き、想像と二次元に潜んでいた猛者共が、遂に姿を表したのだ。
その結果、SNS、掲示板、日本のあらゆるネットサーバーが、過剰なログインと書き込みによりダウン。
国を叩く報道には、局に直接ウイルスが流し込まれるという前代未聞の事件まで発生。
『現実異世界化』
『冒険者キタコレ』
『俺の時代』
全国を埋め尽くしたこれ等の言葉。
彼等の常軌を逸した歓喜の雄叫びには、発表した国家上層部の本人達ですら狂気を感じたと聞く。
そう、これこそが我らが母国、
変態の国、日本なのである。
§
天気は快晴。燦々と降り注ぐ日差しの下、ロータリーに停車した高級高速バスが、その車体を煌めかせていた。
「デカいっす!」
「緊張してきた」
「ふふ、はしゃぎすぎよ」
「ピィ……」「ンゴォ」
「ちゃんとお留守番できますね?少しの間だけですから」
「一番後ろの席取るぞ!」
「ウノやろうぜ!」「この椅子フカフカだぞ大将!」
「……うるせぇ」
猫目、風代、氷室、加藤、毒島、とその舎弟、朧、その他特区より帰還した資格試験希望者が、各々の荷物を手に、バスへと乗り込んでいく。
彼等の力と経験は、国にとっても貴重。身寄りの無くなった者も多くおり、受験を希望する危険区域出身者には、それなりの待遇が約束されていた。
車掌は名簿を見ながら、最後の二人を待つ。
その二人、東条とノエルは、現在病院の物陰で謎の生物と話をしていた。
謎生物それすなわち、布団に包まり、目の下に隈を貼り付けた有栖である。
彼女は生気のない顔で十秒飯を咥え、二人に仕事の現状報告していた。
「依頼されていた、此方の知っているモンスターのリストアップと、国との擦り合わせ、データの見直し、作成、シミュレーション、ようやく全部終わりましたよ(ボソ)」
「お疲れさん」
「ん。よくやった」
「ほんとですよ。疲れましたよ。そもそも何でこっちの方が国より詳細な情報持ってんですか?その所為で私がプロジェクトリーダーにされるし。資格試験の合格ラインの元データ、殆ど私が作ったようなもんですよ?褒めてくださいよ、もっと褒めてくださいよっ(ボソ)」
「うんうん、お疲れさん」
「ん。よくやった」
「私今ブラック企業にいます!」
過労を訴え転がる彼女を、ノエルが踏みつける。
「グェっ」
「スライムはよく頑張った。ゆっくり休んで」
「行動と言葉が噛み合ってない!あとそのモンスター呼びやめて!」
「ところで、有栖は試験受けないのか?」
「受けませんよ。寝ます」
「ライム雑魚過ぎる。受けてもどうせ落ちるし、ノエル達の関係を上層部以外に悟られても面倒。来ないのが一番」
「え?ノエルちゃん、私たち友達だよね?キツ過ぎない?」
それもそうだな。と東条は納得する。
「んじゃ俺達行くから。次は京都で合流か?」
「あ、はい。事務所を買ってくれたのは、普通に感謝しています。有難うございます(ボソ)」
「いい物件買い取ったからな。見たら驚くぜ?」
「期待しておきます(ボソ)」
東条とノエルの旅に、彼女を連れて行く事は出来ない。
そも、彼女の仕事はチームの全てのデータ管理である。いつまでも病院で仕事をする訳もいかないという事で、この際だから拠点を作ってしまおうとなったのだ。
加えて、これはまだ公表されていない事だが、近々国の対策本部、総理官邸なども京都に移設される事が決まっている。
国の保護を受けるなら、その近くがいいだろうとの事で京都にしたという訳だ。
「じゃな、よく寝てよく食べるんだぞ」
「夜更かしはしちゃダメよー」
「お母さん?(ボソ)」
有栖に手を振り、二人はバスに乗り込むのだった。
――「修学旅行みたいっす!」
「ちょっと猫目ちゃんっ、マイク持たないで」
小さなハウリングを起こした車内に、周囲の者達からも「歌え歌えー」と野次が飛ぶ。
「紫トサカ!歌で勝負っすよ!」
「上等だクソ猫が!」
バスガイドのお姉さんが音源を入れ、喧騒寄りのBGMが車内に響き渡る。
大人組は微笑み、朧はヘッドホンを耳に毛布を被る。
そんな騒がしい空気に、ノエルも弄っていたパソコンを閉じた。
「どした?」
東条はアイマスクを外し、ウズウズする彼女を見る。
「ノエルも歌いたい」
「ハハっ。猫目っ、ノエルが歌いたいってよ!」
「何⁉︎離せトサカ!」
「っおい⁉︎まだ歌ってんだろ‼︎」
熱唱していた毒島からマイクをひったくった猫目が、ノエルへとそれを回す。
「テステス、歌います」
――両手でマイクを握り、堂々と歌う彼女。
楽しそうなノエルを見て、東条は微笑み、再びアイマスクを着けた。
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