26話

 

 快感に頬を紅潮させる彼女だが、しかし、


「――ははは、……ふぅ。……とは言ったものの、貴様らは死んではくれないか」


 紅の視線の先には、土魔法で身を守る者。

 弾丸を全て躱すワーウルフ。

 そして殆どのゴリラが、身体強化を纏い弾丸を物ともしていなかった。


(……猿と犬は粗方死んだか。残るはゴリラが十と、デカい犬が三、だな)


 紅は最後に銃弾を全て一匹のゴリラに放ち、集中を解いた。


「ま、耐えるよな」


 五十発の強化弾丸を耐え切り睨んでくるゴリラに、苦笑する。


 この技はザコ狩りにはいいが、強者には大して効果がない。

 無駄に集中力を食うし、何よりこれ以上暴れさせると、自分で重要施設を壊してしまう可能性がある。


 残りの敵はあと少し、よって、


「ここからが本番だ」


「ゴァアアッ‼」


 跳躍し飛び掛かってくる一匹を、腕を振り雷撃で打ち落とす。


「……」バチッ


 周りの建築物を立体的に飛び回る数匹が鉄塔に足をつけた一瞬を見計らい、電流を流す。


「ゴっ⁉」「グルアっ⁉」「ギっ⁉」「ゴヴァっ⁉」


 強制的に張り付いた足に驚愕する四匹の頭上、意識する間もなく、凝縮した電光が唸りを上げる。


 しかし、


「……チっ」


 放った雷撃に地面から伸びた土の棘が直撃し、威力の大半を大地に流されてしまった。


 余波が撒き散らされ、電線が千切れ飛び火花を散らす。


 学習した四匹はすぐに飛び降り、再び散開する。


 紅が睨む先には、後方で支援に徹する一匹の土魔法ゴリラ。

 あれがいる以上、電撃を放っても避雷針を作られて回避されてしまう。


(あいつからやるか)


 土ゴリラに狙いを定め、前掲姿勢になっ――


「ガルァアッ‼」


 時速百㎞を越える速度で走り回っていたワーウルフの一匹が、紅の後ろを取り凶刃を振り翳した。


 人間を遥かに超える脚力での攪乱と接近、急襲。


 正に王手。


 しかし次の瞬間、


「見えてるよ」


 ワーウルフの頭部に雷槍が突き立ち、間髪入れずに降り注ぐ雷槍が全身を貫き地面に叩き落とした。


 見るも無残に焼け焦げたワーウルフは、ピクリとも動かず煙を上げる。

 それを見た残りの二匹は、追撃を止め再び駆けだした。


 紅はワーウルフを無視し、身体を加速させ土ゴリラに突貫する。


「ゴルァッ‼」


「ホッ‼」「ゴァッ」「ゴリッ」


 土ゴリラの咆哮に三匹のゴリラが動く。


 一匹が紅の前に躍り出て、炎の壁を顕現。


「ゴォアッ‼」


 一瞬でその場から退避した土ゴリラは、叫び両腕で地面を殴りつける。


 同時に、雷霆監獄内の至る所から長大な土の塔が隆起した。

 邪魔されることのない即席の足場が完成する。


「――ッチィっ」


 炎壁を無理矢理突っ切った紅の眼前に迫る大火球を、それ以上の大落雷で炎ゴリラごと圧し潰す。


 土塔を駆け登る二匹に雷撃を放つが何と、一匹が空中に身を投げ出し、魔力を纏い身体を丸め全ての雷撃から後ろのゴリラを守った。


「ゴオアッ‼」


「っ」


 煙を上げ絶命した丸ゴリラを、もう一匹が全力で蹴り抜く。


 爆速で吹っ飛ぶ肉弾に痛みなどありはしない。故に、止まらない。


「――ッ」


 飛んで来る死体をぶん殴り、叩き落とす。


 その陰から現れた、両腕を組み合わせ振り被る蹴りゴリラに、間一髪雷撃を浴びせる。が、


「ゴルォオオッ‼」


「――な⁉ッ」


 白目を剥き泡を吹く蹴りゴリラは、全身を電流に焼かれながらも全力で拳を振り下ろした。


 咄嗟にガードするが、火事場の馬鹿力に押し込まれ地面に叩き落とされる。


 全てのゴリラとワーウルフが、ここを先途とし一斉に動いた。

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