27話

 

「――ふぅッ」


「ゴビャっバシュッ」


 紅は着地と同時に半回転し、ハイヒールで蹴り上げゴリラの首元を潰し電流を流し込む。


「ゴッア⁉」


 振り抜かれる拳を払い、二匹目の肘関節を叩き折る。


「ガバハッ⁉――


 左から来る三匹目の拳を首をずらして躱し、懐へ入り込み顎下を掌底で突き上げ、一歩踏み込み、顔面を掴み、


 ――ギョぶっ」


 地面に叩きつけ頭部を爆散させた。


「ガロァッ‼」


 休む暇もなく飛びついてくるワーウルフを跳んで躱すが、


「――チッ」


 後ろから飛び込んで来た、二匹目のワーウルフの大口が首筋に迫る。


「(ガギンッ)」


 バク宙でギリギリ躱し、ワーウルフの頭上を通過する際、脳天に手を添えた。


「ガびゃびゃbbb――」


 一瞬で脳が沸騰したワーウルフを敵に蹴り飛ばし、少しでも接敵の速度を遅くする。


「ふぅぅう「ゴアッ‼」――っ」


 紅の額から汗が飛ぶ。


 彼女の魔力も体力も、膨大ではあるが無尽蔵ではない。


 今まで雷撃に打たれた敵は一撃で死んでいる為、紅が優勢に見えるかもしれないが、それは紅が一撃一撃に本気を籠めているからに過ぎない。


 ゴリラとワーウルフには、並の魔法では傷を与えることすら叶わないのだ。


「ゴォアッ」


「――ッ」


「ボbbbb」


 肘折れゴリラの回し蹴りを躱しざま、伸びきった膝を叩き折り、鳩尾に雷撃を叩き込んだ。


 しかし、


「ホゥオッ」


「――⁉っ」


 横からの飛び蹴りに反応が遅れ、腕を十字にして受けきる。


 紅の顔に焦りが浮かぶ。


 魔力の消費率と、敵の殲滅率が釣り合っていない。


 このままでは数に押され、全滅させる前に自分が殺される。


(残り四っ。一度態勢を立て直すっ)


 彼女は大きく飛び退き、電磁浮遊で上空に避難しようとした。


 その時、


 今まで動かなかったゴリラが突如駆け出し紅に接近。


 そしてなぜか、地面に向かって魔法を放った。


 それは彼女と同じ、雷属性の魔法。


 意図が読めぬまま、紅はさらに上空へ行こうとする。が、


「(なに)を⁉」


 瞬間、上昇が止まり、身体が落下を始めた。


(私の魔法を、同属性で打ち消したのか⁉――これは、まずいッ)


 自由落下に揺れる視界の中には、地を駆ける土ゴリラに、土塔を登る二匹のゴリラ、ワーウルフの姿はない。


 焦り雷撃を放つが、直線的な軌道は簡単に読まれ土壁に阻まれてしまった。


「――っクソが!「ゴルアッ‼」――っ」


「ゴルオァッ‼」


「ぐふぅッ」


 左側の土塔から跳躍したゴリラの拳は防ぐが、ほぼ同時に振り抜かれた、右塔から跳んだ雷ゴリラの拳が脇腹にめり込む。


 苦痛に顔を歪める紅は、地面と平行に吹き飛んだ。


「――ゲホォっ「ゴルオッフ‼」――ックゥっガハっ」


 追いついた土ゴリラの両拳に無理矢理叩き落とされ、背中を地面に強打。

 衝撃にバウンドする紅の口から、血が飛び散る。


 土ゴリラは彼女の足を掴み、ぶん投げた。


「ホっホっホっ、――ホォアッ」


「グぅっ」


 大地を疾走する雷ゴリラは、塔を駆け上り跳躍。

 空中で身体を捻り、ドンピシャで彼女を蹴り飛ばした。


 ぶっ飛ぶ紅にゴリラが並走し、拳を振り被る。


 霞む視界、消えそうな意識。彼女の目が、怒気に燃えた。


「グぅあああああああああッ‼」

「ゴゥア‼っびゃ――」


 ゴリラの拳と同時に裏拳を放ち、怒りの一撃を左頬にぶち込む。


 紅も血を吐き地面をバウンドして転がるが、一撃を食らったゴリラは首から上が三回転し、その場に倒れ伏した。


「ぅう、ゴホっ、――っってぇなあ‼」


 震える筋肉を無理矢理叩き起こし、髪を振り乱し立ち上がる。

 残り僅かな魔力を練ろうとした、



 瞬間、



「――ガロアッ」


「な⁉――っカハっ」


 ずっと機を窺っていたワーウルフが、この一撃に全てを懸け彼女の背後を取った。


 コートも服も身体強化も全てを切り裂き、紅の背中に血飛沫と共に深い爪痕が刻まれる。


「ガゥアッ」


 ワーウルフに蹴り飛ばされ、紅は鉄塔に叩きつけられる。


 彼女は血の線を残しながら、ズルズルと尻をついた。

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