25話


「グルゴォ‼」「ゴアァ‼」「ギャッギャッ」「ギギャァ!」「キィィイ」「ホッホッホ」「ゴルゴゥ」「キャギャッ」「ギャンッ」「ガウガウ」「ガルルルルッ」「バフゥッバフゥルルッ」「アオォォォォォン」――


「うるせぇな」


 石器やら包丁やら鉄パイプやらで地面を叩く猿に、ドラミングし雄叫びを上げる赤ゴリラ。


 その後ろに並ぶ二足歩行の犬、コボルトに、

 ダラダラと涎を垂らし、薄汚い毛を纏った、体長百七十㎝程の二足歩行する大型犬。ワーウルフ。


 紅は感知と目視から、注意すべき対象をゴリラとワーウルフに絞った。


 猿軍団が自分に充分近づいたのを確認し、煙を吐き出し、にやりと笑う。


「……ま、粗方これで死ぬだろうがな(ボソ)」


「「「「――っ」」」」


 ゴリラとワーウルフを含む強者だけが、紅の一瞬の魔法行使に気が付く。


 が、遅い。


「『雷霆監獄レイティン・ジァンユ』」


 紅を中心として半径二百m地点の外周に、天高く雷の牢獄が出来上がった。




 ――電力施設の外周から、更に百m離れた民家や建物の中。


 施設をぐるりと囲む様に、紅の部下達が長距離ライフルを構えていた。


 その一人である康も、自身のcell【observer 感覚強化系いつかビッグになりたい】を発動して、はらはらと紅の様子を見ていた。


(あああビックリしたぁっ、猿いきなり現れた時死んだと思ったわ!何なんあいつら⁉来るなら来るで連絡しろよ!あのゴリラと化け犬怖すぎんだろ!何で姉御あの状態で笑えんの⁉あの人おかしいよ‼)


 康は未だドキドキと鳴っている心臓を必死に静める。


 自分達が与えられた仕事は一つ。雷の壁が見えたら、一斉に弾丸を打ち込む事。


 今までも姉御の援護をすることはよくあったが、ここまで離れたことは一度もなかった。


 それ程までに姉御が本気だということ。自分達の身を案じてくれているという事。


 なぜなら彼女が本気で戦う時、彼女の周りは人が生きていける環境ではなくなるのだから。


 その時、雷音と共に城壁が聳え立った。


「――ッ」


 康を含め約五十人の部下達は、躊躇わず一斉に引き金を引いた。




 ――雷霆監獄が完成した瞬間、その空間は高圧の電流が入り乱れる電磁界と化した。


「ギャぎゃぎゃぎゃぎゃ――」


 それなりの魔力を纏える数十匹を除き、大抵の猿と犬は泡を吹いてその場で痙攣を始める。


 瞬間、遠方で鳴り響く発砲音。


 紅の髪の毛が静電気でふわりと舞う。


「……電磁加速、弾道制御」


 五十の弾丸が雷の壁を通過した、刹那、その弾速は数倍に跳ね上がり軌道を変え、動けない猿と犬を次々に撃ち殺していく。


「ギべっ」「ウキゃっ」「バキょっ」「ブきゃっ」「アびゅっ」「ボバっ」――


 そこに命の尊さなど微塵もない。

 只事務的に、只作業的に、生まれ落ちた生が、何の意味も得ず血を噴いていく。


「あははははっ、壮観だな!」


 磁場を制御し空中に浮かぶ彼女は、血の様に赤い頭髪を振り乱し、凄惨な光景を心底楽しそうに見渡す。


 抵抗できずに頭を破裂させるエテ公。

 半身が吹き飛んだことに気付かず絶命する犬畜生。


 何と愉快、何と滑稽。

 勝利を確信した敵を蹂躙するのは、これだからやめられない。

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