11話

 


 ――「……ここら辺になってくると、やっぱり生存は絶望的だねー」


「モンスターのLvも、格段に上がっていますッ。四時の方向、来るよ!」


「「ハっ」」


「いかがいたしますか、隊長」


 女性隊員に問われ、千軸は暫し考える。

 そんな光景を、東条は任された機械類を運びながらチラ見していた。


 (……どういう能力だ?)


 千軸は顎に手を当て走っているだけ。にも関わらず、彼に近づいたモンスターが一瞬で焼け焦げ吹き飛んでいく。

 本当に一瞬なのだ。炎のエフェクトも、魔法のモーションも、一切がない内にモンスターが黒焦げになる。


 詳細は何も分からないが、確実に言えるのは、これが魔法ではなくcellによる現象だということ。


 加えて、他の隊員は皆彼から一定の距離を保っている。約五mといったところか。


 ……今あの内側に入るのは、どうにもマズい気がしてならない。


 東条がまだ見ぬ異能にワクワクしている中、千軸が顔を上げた。


「……よし、ルートを変更する。これからネカフェに行き、生存者の確認。生存者がいた場合数人を待機させ、次いで水族館へ急ぐ。後ネカフェ組と合流、大学へ向かう。この場所は後回しとする。以上」


「「「了解」」」


「了解」


 生存が絶望的な場所だからこそ、生存者がいる確率の高い場所を優先する。合理的な判断だ。


 普段はそこはかとなくやる気のない千軸だが、スイッチを切り替える場所は間違わない。

 東条は軍人としての彼を見て、最高にカッコいいと思った。




 ――「(3、2,1、Go)」


 千軸と共に、数人がネカフェ周辺に張り巡らされた土棘の壁を飛び越え、突入する。


 そして、彼は構えていた銃を、安心したように下ろした。


「……生存者確認。人数を確認し次第、すぐに出る」


「「「了解」」」


「了解」




「まささん!お久しぶりです!」


「(あの人、生きてたのか)お久しぶりです、元気そうで何よりです」


 あの時出会った中年が手を振って走ってくる。確か、快人が追放したと息巻いていたが。


「いやー、あの後は大変でしたよ。快人さんに追い出されたんですが、隙を見て彼等が助けてくれまして」


 中年は若い四人組を指す。


「なるほど、それは不幸中の幸い極まりなかったですね」


 ここで今一番強いのは、恐らく彼等だろう。あの時の快人と同等レベルの威圧感がある。


 痩せ細っていた大半の人間も、今ではそれなりに血色がよくなっている。現リーダーの優秀さが伺える。


 そこに、


「離してよ!快人がまだ帰って来てないのよ!離して‼」


「落ち着いて下さい」


 喚き散らすキララが、女性隊員に宥められながら姿を見せた。


「――っ」(あ)


 目が合う。


「あの男!あの男が快人を殺したのよ‼早く捕まえてよ‼」


 (え、バレてんの?)


 一瞬ギクりとなるが、周りの人間が鬱陶しそうに顔を顰めているのを見て、普段からこうなのだと察する。


「……そう言えば快人さんの姿がありませんが、彼は?」


「え、あぁ、……申し上げにくいのですが、まささんの動画を見た後、その、復讐しに行くと出て行ったらしく。それきりです」


 中年は言いにくそうに顔を下げる。


「それは……、俺にも責任がありますね」


「そ、そんなことありません!……こんなこと言うと罰が当たるかもしれないですが、彼がいなくなってから、この場所は大きく変わりました。

 守ってくれる存在がいなくなったせいで、誰もが武器を取り、自分に出来ることを探す様になったんです。

 そのおかげで今は、あの時よりは強く生きれていますよ」


 その笑顔に過去見た陰りは無く、生きようと足掻く晴れやかさが見て取れた。


「それは何よりです。でも食料はどうしてたんですか?カツカツだった気がしますけど」


「実は、彼等は快人さんに嘘を報告していたらしく、結構余裕があったんです。それを元手に数人で遠征したり、下水道を通ったりして、確保してました」


「それはまた……」


 強かなことだ。今のネカフェは、若者四人の新リーダーのおかげで在るようなものなのか。


「何はともあれ、無事で何よりです」


「有難うございます。ノエルさんにもお礼を言いたかったですが、後で言うことにします」


「……?それは」


 まるでノエルが今何をしているか知っている様な言い方だが。


「あ、え、てっきりご存じかと。今ノエルさん、LIVE中継してるんですよ。ほら」


 中年が見せてくれたスマホには、確かに特区を駆ける自衛隊の面々が映っている。ついでに偶に入り込む白髪も。


「……あいつ」


 多少画質が荒い為、スマホで撮影しているのだろう。


 赤スパが次々と流れていく画面に、彼女のちゃっかり具合を再確認した。


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