10‪話

 


 ――二日目


「それでだねまさ、一概にロリコンと言っても、皆が皆犯罪者予備軍として扱われるのはおかしいと思うんだよ」


「分かるぜ。俺も二次元の中のロリは好きだけど、現実のガキは嫌いだ」


「リアルってそういうとこあるよね」


「老人は老害だったらと思うと怖いし、同年代はすれ違う時なんか背筋張っちゃうし、小学生くらいの生意気なガキとは話したくないしな」


「二次元の中の至高のキャラと、貴様等の浅ましい欲望が産んだ犯罪を、同列に置くんじゃねぇって話だよ」


「……千軸よ。俺は今まで、ロリとは何かを考えて生きてきた」


「……ふむ」


「ロリとは主に、九歳以上十四歳以下の範囲を指すらしい。小三から中二くらいの年代だな。

 お前はこの年代の三次元の女性に、ルルの様な憧憬や、ましてや興奮を覚えるか?」


「有り得ないな」


「そうだ。彼女達は幼女や少女と呼ばれるべき存在であり、『ロリ』ではない」


「……何が言いたい」


「少女や幼女は、見た目通りの知性、感情、行動しか起こさない。偶に大人顔負けの発想を持つ子供もいるが、それは単に、大人が成長途中で忘れてしまった発想を過大評価しているに過ぎない。天才と呼ばれる知性を持つ子供も、単なる脳の違いだ。


 俺が重要視しているのは、感情、自我、個の証明。


『ロリ』は、幼き身体を有していながらも、その内面は成熟していると言っていい。時に大人に寄り添い、肩を並べ、癒し、励まし、母性すら見せる。

 年相応の思考や行動が大半だが、『ロリ』と呼ばれるべき彼女達には、至る所に成熟の片鱗が見て取れる。


 俺は感情ってのは、経験と密接に繋がってると思ってる。

『ロリ』とは、これから経験し培って行くだろう自分を予め備えつつ、その過程で消え去ってしまう純粋で無垢な自分をも残した存在。

 本来は決して交わることのない二面性を有した、我々の偶像。我々の悲願。有り得ないからこそ、尊い!



 ……『ロリ』とは、そんな彼女達だけに使われるべき、尊敬の言葉だ」



「…………まさ……お前っ」


「千軸っ」


 ソファーに座った二人の手が、ガッチリと組み合わせられる。

 ……ソファーに座った、二人の手が。


「……隊長、まささん、それ以上くだらない談議をするようであれば、日本の未来の為、貴方達を牢屋にぶち込みます」


 ビキビキと青筋を浮かべた女性隊員が、魔力を滾らせ本気で警告する。


 そしてその光景に手を叩いて笑うのが、


「はははっ、やっぱりまさは面白いなぁ。ふぅ……、まぁまぁ、そう怒らずに。中々興味深い話だったよ」


 対面に座る藜である。


 そう、ここは防衛省執務室。現藜組本部である。


 二日目の朝、皇居周辺に到着した千軸隊は、東条に案内され彼等の拠点へと足を踏み入れていた。


 自分達のよく知る建物が、ヤクザの根城になっていると知った千軸隊は、それはもう驚いていた。


 藜が前のめりになり、東条を見つめる。


「そうなるとだ、まさ。ノエルは『ロリ』と言っても良いんじゃないか?あれの内面は最早人ではないだろ」


「藜さんまで……、もう好きにしてください」


 女性隊員が、収拾のつかないロリ懇談会に匙を投げる。


「……認めたくはないけど、ノエルは三次元に生まれ落ちた、最も『ロリ』に近い存在ですね。ネットの住人があいつに熱狂する理由も分かりますよ」


(あの子、そんなに凄いのか)


 千軸は昨日のノエルを思い出すが、禍々しさが強すぎて身震いする。


「それで千軸さん、避難の件ですけど、我々はここに残らせてもらいます。正直部下達は連れて行ってほしいんですけど、誰もここを出て行こうとしなくて」


 頭を掻く藜の後ろで、待機している組員が当然だと言わんばかりに鼻を鳴らす。


「理由を聞いても?」


「探しているモンスターがいまして。私はそいつを殺すまで、ここを離れる気はありません。

 詮索はなしでお願いします」


 有無を言わさぬ藜の笑顔に、千軸も口を閉ざす。


「……分かりました。明日か明後日、恐らく総隊長が来ますので、この件は彼と話してください」


((あ、こいつ丸投げしやがった))


 東条と女性隊員は瞬時に悟った。


「では私達はこれで」


 話し合いも終わり、千軸に続き東条も去ろうとする。


「まさ、紅も笠羅祇もノエルに会いたがってたからな、暇な時は顔見せてくれ」


「……何だよ皆ノエルノエルって」


「俺はお前に会いたかったぜ?」


「……藜さんっ」


 ウィンクする藜に、心が一瞬ときめいてしまった。



 千軸は外に出るなり、大きく身体を伸ばす。


「はぁ……、ようやく一息つける」


「あの人初対面の人間威圧する癖あるからな、あそこで動じない千軸達は凄ぇよ」


 藜の魔力は、前にも増して濃く強くなっていた。着実にモンスターを殺しまくっているらしい。

 自分も負けていられない。



 防衛省から出た一行は、再び北を目指し歩を進めた。

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