9話
「おはようございます。まさ殿、ノエル殿」
「おはようございます。亜門さん」
「おはよ」
先頭を歩く亜門を含め、腕章を付けた三人を見定める。
(……ちゃんと強い)
やはり特区に派遣されるだけある。
それぞれが纏う魔力の練度は、今まで見てきた人間の中で一番高い。一週間ちょっとでここまで仕上げたのなら、流石戦闘のプロと言う他ない。
そして東条とノエルを前にした亜門、千軸、彦根も、二人から漏れ出る覇気に平静を保つのがやっとであった。
(……ビデオ通話など当てにならんな。底が知れん)
(うひゃ~)(うひゃ~)
互いの力量を大まかに把握したところで、亜門が手を差し出す。
「改めまして、今回総隊長を務めます、亜門です。よろしくお願いします」
「お願いします」
「横の二人は、隊長の千軸と彦根です」
「「よろしくお願いします」」
「お願いします」
「今回救助活動を行うのは、私の亜門隊と千軸隊です。つきましては、ノエル殿は亜門隊に、まさ殿は千軸隊に同行してもらいたいのですが」
「はい。事前に聞いてます。構いません」
「感謝します。それでは早速ですが、あと一分で作戦を開始します。各隊と共に所定の
位置へお願いします」
「はい」
「バイバイまさ」
「おう。ちゃんと亜門さんの言う事聞けよ」
「善処する」
ノエルはビデオカメラを仕舞い、バッテリーだけ取り出し、バカデカいリュックは毒島に投げ渡し歩いていく。
東条は洗濯機を置き、その際、小さく手を振る風代に気付く。ノエルに言われたことを思い出し、一瞬躊躇いながらも手を振り返した。
そうして二人は六人に見送られながら、大学を後にした。
――((……気まずい))
山手線内の東側を駆ける東条と千軸は現在、絶賛会話に困り中であった。
作戦の詳細は既に聞いてしまった為、会話のネタにはもうできない。
自分達の仕事は、反時計回りに特区を探索し、生存者を見つけ次第いちいち大学に連れ帰るというものらしい。なるべく多くの場所を探索するため、ほぼ野宿となる。中々ハードだ。
今仮の目標として目指しているのが、いつぞやの水族館館長、加藤さんと、ネカフェ立て籠もり組だ。
「……隠れてる人ってどうやって見つけるんです?」
東条が意を決して話しかける。
「あはい。何か最先端のレーダー使うらしいです。ほら、あの人が持ってるやつ」
千軸は部下が持つ中型の機械を指さす。
「は~。文明の利器って凄いですねー」
「ほんとですよねー」
「「……」」
レーダーから鳴る機械音が、もの寂し気に響く。
(あぁマズい、せっかくまささんが話しかけてくれたのに。何か話題を、話題をっ)
冷や汗をダラダラと流す千軸は、ベストと隊服の前を開け風通しを良くする。
部下が注意しようと前に出るが、その前に、東条の目がその下にプリントされた美少女に吸いよせられた。
「……それ、ルルですか?」
「⁉ルルを知ってるんですか!」
「え、ええ。マジカルナインですよね。俺こう見えて二次元オタクなんで、アニメ見てましたよ」
「顔黒いからどうも見えないんですけど、……そうですか。
あぁ総隊長、貴方がまささんと俺を同じ編成にした意味が、ようやく分かりました!昨日はクソ堅物ケモ耳野郎なんて思ってごめんなさい、貴方は部下思いの良い人だ!」
勿論、亜門はそんな事微塵も考えていないのだが。
急にテンションが爆上がりした千軸に、東条はドン引きし、部下は額を抑える。
「同士よ!ここで出会ったのも運命、存分に語ろう!」
「お、おう。よく分からねぇけど、あんたとは話が合う気がするぜ!」
「「(ガシッ)」」
二人の熱い友情とは裏腹に、いきなり任務に支障が出始めた現状に、辟易とする部下達であった。
――一日目
「何⁉お主ルルではなくシノンちゃん派か!」
「おぉよ。一見冷たそうな彼女だが、内心はいつもメンバーの事を心配してるんだ。でもいざ顔を合わせると、恥ずかしくて素っ気ない態度を取ってしまうっ、このギャップこそ至高!」
「くぅっ、分かってしまう自分が、ぅ愚かしい!だが小生はルル一筋!彼女の幼き可憐さと暴力性の中に瞬く、圧倒的美こそっ、唯一無二で不変の輝きである‼」
「グゥっ⁉何という愛の深さ!」
「ちょっと黙って下さい⁉モンスターに気付かれます!」
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