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「最初から強くて、人を食いものにして生き残って、その後は弱い者から搾取する。随分気楽で楽しそうな生き方だな」


「おいやめろっ」

「新君もうやめよ!」


 東条の事情の一端を知っている馬場が制止の声をかけ、胡桃も慌てて止めに入る。


 しかし新は薄笑いを浮かべ、尚も続ける。


「俺はあの日、父さんと母さんに、妹を亡くしたよ。……妹は瓦礫に圧し潰されて死んだ。……父さんと母さんは、俺を守るためにモンスターに向かって行った」


 新はその時の光景を思い出し、自身の拳を血が滴る程握りしめる。


「人を金としか思ってないお前に、俺の気持ちが分かるわけない。分かって堪るか。

 ……命の尊さが、命の気高さが、分かって堪るかよッ」


 親の仇を見る様な目で東条を睨む新。


 対する東条はざわつく心を抑え、少しばかりの感情を乗せて睨み返した。


「大切な人の死を、盾にするなよ」


「はッ、お前に最も似合わない言葉だな」


「おい新!いい加減にしろっ」


 馬場が新の胸倉を掴む。と同時に、圧倒的な魔力の重圧が教室を埋め尽くした。

 その出所は、ぶち切れた東条、……ではなく、




「殺す」




 自身の相棒の大切なモノを傷つけられ、ブチ切れたノエル。


 大気が震え、コンクリートが軋み、机に罅が入った。


 三人は嘗てない殺意に晒され、全身の鳥肌が立ち、体中から玉の汗が噴き出る。恐怖で身体が硬直し、その場から一歩も動けなくなった。


 ノエルが串刺しにしようと手を掲げた、瞬間、この中で唯一動ける男が、彼女の目を掌で覆った。


「……まさ、どうして止める」


「目、割れかけてたぞ。気ぃつけろ(ボソ)」


「まさ」


「……ありがとうな。俺の為に怒ってくれて」


 ノエルがゆっくりと手を下ろす。


「……まさが我慢するなら、ノエルも我慢する」


「ありがとよ」


 掌を退けると、彼女の瞳は人の形に戻っていた。


「……人間が少し分かった気がする。この場であれを殺すのは、デメリットしかない。

 でも今は、……そうなってもいい気分」


 東条はノエルの頭をポンポン、と叩いた。


 重圧が霧散し、胡桃と馬場はへたれこみ、新は椅子に落ちる。




 新は悔しかった。友という言葉すら否定され、自らの信念を害だと断定され、挙句の果てに力で押さえつけられた。


 自分が今まで大切に培ってきたモノを、不必要だとゴミ箱に捨てられたのだ。


 新はそれが、悔しくて堪らなかった。




 故に自然と出た言葉は、彼の用意できる最適解。……いや、最不適解であった。






「……ノエルを失えば、お前も分かるさ――」






 ――東条の中で、何かが切れた。





 次の瞬間、轟音と共に彼等の見ている風景が一変した。

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