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――夕食を貰いに、体育館へ向かう三人。
「だいぶ遅くなっちまったな。出発は明日にするか」
「ん。眠い」
「さっき寝てたろ」
東条とノエルにとって、予定などその日の気分でしかないのだ。
有栖は、国相手に終始堂々としていた二人を、半ば呆れながらも尊敬していた。
「私の人生これからです。二人についていけば将来安泰です。うぇへへへへ(ボソッ)」
「使えなかったらすぐ切り捨てる」
「うぇへ、私能力だけはありますからね。二人共、私無しじゃ生きていけない体にしてやりますよぉ(ボソッ)」
「……やっぱり契約保留にしね?」
「ノエルも不安になってきた」
「そ、そんなこと言わないで下さいよ(ボソッ)」
体育館前に着くと、東条を見つけたジャンパー女学生と殴打娘が駆け寄ってくる。後ろにはリーダー女性と胡桃もいる。
その光景を目にした有栖は、そそくさと二人に背を向けた。
「なんだ、一緒に食わないのか?」
「知らない人がいる食事の場って、苦手なんです(ボソ)」
「すらいむの濃い性格ならすぐ馴染めると思うけど」
「へへっ、馴染めなかったからこんな人間になってんですよ。一人で静かに食べるのが好きなんですよ。その点トイレはいいですよ?とても静かですし、鍵もあるからプライベートも確保できます。食事中にお腹が痛くなってもトイレに行く必要がありません。だってトイレなんですから。へへへっ(ボソ)」
「そ、そうか」
「それじゃあ、また後日」
「おう。強く生きろよ」
「ん。強く生きて」
陰鬱と歩いていく彼女を見送り数秒後、殴打娘のダイビング頭突きが鳩尾に刺さった。
「いった~、腹筋バキバキっす!」
「鍛えてるからな」
東条の腰に抱き着く殴打娘に、口を尖らせるジャンパー女学生。
彼女はもじもじしながらも、意を決して口を開いた。
「あ、あの、まささん、一緒に食事「見せて下さいっす!」――っ⁉」
「ぅおっ」
強引にたくし上げられ露わになる、引き締まった肉体装甲。そんな男の美は、初心なJKには少々刺激が強かった。
「見るっす!カッコいいっす!カッタ!」
「は、はははしたないですよ!(固いの⁉どれくらい固いんですか⁉それに傷だらけで、男らしい……、私もちょっとだけ、)」
「こらこら、まささん困ってるでしょ」
ジャンパー女学生は伸びかけた手を高速で引き戻した。
「……まさ、鼻の下伸びてる」
「伸びてねぇよ。てか何で分かるんだよ」
殴打娘がリーダー女性に引き剥がされる光景に、胡桃もクスクスと笑う。
「ふふっ、人気者ですねまささん」
「ええ。今世紀最大のモテキが到来中です」
服を直す東条は辺りを見回し、いつも胡桃と一緒にいるあの男がいないのを不思議に思う。
「今日は新と一緒じゃないんですね」
「え?ええ。なんかまささんに会いに行った後、すぐにご飯食べて自室に行ってしまって。Xtube?ていうのを見てました」
「俺に会いに?今日は会ってないけど」
「え?そうなんですか?……様子もおかしかったし、また後で聞いてみます」
「うぃ」
別に自分が気にすることでもない。
そんなことよりも。
「食事だったか?いいぜ」
そう言って女学生を見ると、彼女の悲しげだった表情に一瞬で花が舞った。
「は、はい!……やった~っ(ボソ)」
(聞こえてるぞ~)
食事の列に並ぶため、五人で入口へ歩いていく。
「そいや汗の臭い嗅いでごめんね」
「っそ、その話はもういいです!」
「あははっ、いい匂いっす!」
「やめて下さい!」――
濃密な一日の終わりに、女性達に囲まれ夕食を摂る。何と充実した過ごし方だろうか。
自らの性欲に忠実に色ボケる彼を、暗雲から覗く月が静かに見下ろしていた。
……そして翌朝、東条は知ることになる。
親切と怨恨は、表裏一体だということを。
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