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『レクチャー有難うございました。お二人の身体能力が異様に高い秘密が分かりました。これからは地道に研鑽を積んで行こうと思います』
「亜門さんならすぐに俺を追い抜けると思いますよ」
『ハハっ、そのビジョンは今のところ見えないですが、頑張ります』
すると今まで横になっていたノエルがむくりと起き上がり、スタスタと窓へ向かって歩き始めた。
「え?ノエルちゃん?(ボソッ)」
「どうしたノエル?」
ガララ、と勢いよく窓を開け、彼女は外を見回す。
しかし、
「……気のせい?」
そこにあるのは、じっとりとした薄闇だけだった。
『どうかしましたか?』
「いえ、ノエルが起きまして。どうした?怖い夢でも見たか?」
「ノエルに怖いものなんてない。おはよう」
『はい、おはようございます』
亜門は微笑みながら、寝惚け眼の彼女に挨拶を返す。
「今回はこれで終わりですかね?」
『はい。依頼した内容は終わりなのですが、追加で一つ、お二人に聞きたいことがありまして。……勿論、お支払する金額は上げさせていただきます』
ノエルがうんうんと頷く。
「それで、質問というのは?」
『先の説明で、モンスターを殺せば潜在魔力なるものが上がり、扱える魔力量や、素の身体能力が向上すると学びました』
「はい」
『しかし我々自衛隊は、量で言えば少なくないモンスターを狩ってきたはずなのですが、cellという能力を除いて、特筆した変化を見せた者が数百人しかいません。これはなぜなのでしょうか?』
東条は顎に手を当て、熟考する。今まで考えた事もなかった案件だ。
現代兵器のせいは、有り得ない。モンスターを銃無しで倒そうとする自衛隊何ていないだろうし、特筆している人間が数人出ている以上、この仮説は成り立たない。
なんだ?全く分からん。
東条が頭を悩ましていると、隣にいたノエルが彼の膝に座った。
「皆少しは身体能力上がってるの?」
『はい。微量ですが。激戦区にいた者ほど、変化が見られました』
「ここからは推測。真に受けないで聞いて」
『はい』
「モンスターを殺すと、殺した者が強くなる。これ何でだと思う?」
(何でだ?)
『何で、でしょう?』
「モンスターの魔力が、殺した者に移るから」
『――っ』
(へー、そんな仕組みだったのか」
「でもモンスターを殺した際、三分の二くらいは霧散する。強いモンスターを殺したからって、その強さが手に入らないのは、そういう原理」
『なるほど』
画面の奥から、カリカリとペンを走らせる音が聞こえる。きっと見えないところで必死にメモっているのだろう。
「それで、その魔力の移動が、何を基準にして起きているのかだけど。
一番の要因は、行き場のなくなった魔力が、自分を殺した者の魔力に引き付けられること。
二番目が、殺される前に、そのモンスターが強烈に意識していた対象だと思ってる」
『意識していた対象……』
「ん。魔力メインでモンスター倒そうとした自衛隊はいないだろうから、今はこっちは考えなくていい。自衛隊が大量って言える程モンスターを殺したのって、いつ?」
『そうですね、例えば特区脱出の際の…………まさか、』
亜門が驚きに目を見開く。
「ん。どうせ大量の人間で、大量のモンスターを迎え撃ったんでしょ?そこで殺せるモンスターなんて、銃弾が見えない雑魚ばっか。爆弾で一掃なんてしたら、奴等は何で死んだのかすら分からないまま昇天する。
強烈な意識を向ける相手が、そもそもいない」
「……」
『……』
彼女は納得と理解の沈黙に、満足気に胸を張る。
「おぉーー。スゲーなノエル!」
「ん。撫でて」
「よーしよしよしよーしよしよし」
『……これは、すぐにでも試す価値があるな(ボソボソ)』
画面の後ろが一際騒がしくなる。
「亜門」
『は、はい』
「もしこれが事実だとすると、ノエルは国防力の底上げに多大な貢献をしたことになる」
『……そのとおりです』
「検証が終わってからでいい。それに見合った金額を用意するように」
『……分かりました』
「我道」
『え、は、はい』
画面外にいた彼女が慌てて顔を出す。
「総理秘書の我道にも証人になってもらう。うやむやにしたりはしないだろうけど、こっちにもこの会話のデータがあることは忘れないで」
『『……はい』』
「以上。じゃあね」
ブチっ、と一方的にに切るノエル。
東条は長い商談が終わり背を思いっ切り伸ばし、
「ノエル」
「ん」
完璧なまでの〆にハイタッチした。
一方的に切られた側の二人は、
「「……怖ぇえ」」
少女とは思えない胆力と自由さに、数秒画面の前で固まっていたという。
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