78

 


『レクチャー有難うございました。お二人の身体能力が異様に高い秘密が分かりました。これからは地道に研鑽を積んで行こうと思います』


「亜門さんならすぐに俺を追い抜けると思いますよ」


『ハハっ、そのビジョンは今のところ見えないですが、頑張ります』


 すると今まで横になっていたノエルがむくりと起き上がり、スタスタと窓へ向かって歩き始めた。


「え?ノエルちゃん?(ボソッ)」


「どうしたノエル?」


 ガララ、と勢いよく窓を開け、彼女は外を見回す。


 しかし、


「……気のせい?」


 そこにあるのは、じっとりとした薄闇だけだった。


『どうかしましたか?』


「いえ、ノエルが起きまして。どうした?怖い夢でも見たか?」


「ノエルに怖いものなんてない。おはよう」


『はい、おはようございます』


 亜門は微笑みながら、寝惚け眼の彼女に挨拶を返す。


「今回はこれで終わりですかね?」


『はい。依頼した内容は終わりなのですが、追加で一つ、お二人に聞きたいことがありまして。……勿論、お支払する金額は上げさせていただきます』


 ノエルがうんうんと頷く。


「それで、質問というのは?」


『先の説明で、モンスターを殺せば潜在魔力なるものが上がり、扱える魔力量や、素の身体能力が向上すると学びました』


「はい」


『しかし我々自衛隊は、量で言えば少なくないモンスターを狩ってきたはずなのですが、cellという能力を除いて、特筆した変化を見せた者が数百人しかいません。これはなぜなのでしょうか?』


 東条は顎に手を当て、熟考する。今まで考えた事もなかった案件だ。


 現代兵器のせいは、有り得ない。モンスターを銃無しで倒そうとする自衛隊何ていないだろうし、特筆している人間が数人出ている以上、この仮説は成り立たない。


 なんだ?全く分からん。


 東条が頭を悩ましていると、隣にいたノエルが彼の膝に座った。


「皆少しは身体能力上がってるの?」


『はい。微量ですが。激戦区にいた者ほど、変化が見られました』


「ここからは推測。真に受けないで聞いて」


『はい』


「モンスターを殺すと、殺した者が強くなる。これ何でだと思う?」


(何でだ?)


『何で、でしょう?』


「モンスターの魔力が、殺した者に移るから」


『――っ』


(へー、そんな仕組みだったのか」


「でもモンスターを殺した際、三分の二くらいは霧散する。強いモンスターを殺したからって、その強さが手に入らないのは、そういう原理」


『なるほど』


 画面の奥から、カリカリとペンを走らせる音が聞こえる。きっと見えないところで必死にメモっているのだろう。


「それで、その魔力の移動が、何を基準にして起きているのかだけど。

 一番の要因は、行き場のなくなった魔力が、自分を殺した者の魔力に引き付けられること。

 二番目が、殺される前に、そのモンスターが強烈に意識していた対象だと思ってる」


『意識していた対象……』


「ん。魔力メインでモンスター倒そうとした自衛隊はいないだろうから、今はこっちは考えなくていい。自衛隊が大量って言える程モンスターを殺したのって、いつ?」


『そうですね、例えば特区脱出の際の…………まさか、』


 亜門が驚きに目を見開く。


「ん。どうせ大量の人間で、大量のモンスターを迎え撃ったんでしょ?そこで殺せるモンスターなんて、銃弾が見えない雑魚ばっか。爆弾で一掃なんてしたら、奴等は何で死んだのかすら分からないまま昇天する。

 強烈な意識を向ける相手が、そもそもいない」


「……」


『……』


 彼女は納得と理解の沈黙に、満足気に胸を張る。


「おぉーー。スゲーなノエル!」


「ん。撫でて」


「よーしよしよしよーしよしよし」


『……これは、すぐにでも試す価値があるな(ボソボソ)』


 画面の後ろが一際騒がしくなる。


「亜門」


『は、はい』


「もしこれが事実だとすると、ノエルは国防力の底上げに多大な貢献をしたことになる」


『……そのとおりです』


「検証が終わってからでいい。それに見合った金額を用意するように」


『……分かりました』


「我道」


『え、は、はい』


 画面外にいた彼女が慌てて顔を出す。


「総理秘書の我道にも証人になってもらう。うやむやにしたりはしないだろうけど、こっちにもこの会話のデータがあることは忘れないで」


『『……はい』』


「以上。じゃあね」


 ブチっ、と一方的にに切るノエル。


 東条は長い商談が終わり背を思いっ切り伸ばし、


「ノエル」


「ん」


 完璧なまでの〆にハイタッチした。




 一方的に切られた側の二人は、


「「……怖ぇえ」」


 少女とは思えない胆力と自由さに、数秒画面の前で固まっていたという。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る