終章 大切なトラウマ

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 ――「――さ――ぁさ」


(……なんだ?)


「ま――ぁ――さ――!」


(……誰かが俺を呼んでいる)


「――さ、まさ――!」


「(ノエルよ、そんなに呼ばなくても、俺は何処にも行かな)「起きて!」――ゲぶぁッ⁉」


 腹に強化を纏った拳骨を叩き込まれ、身体がくの字に跳ねた。


「ゲッほっ、ごほっおほっ、おま、反応遅れてたら、腹潰れてたぞっ!ゴほっ」


「見て!」


「ああ⁉」


 苛立ちながらも突き出されるスマホに目を向け、……知った顔が映っている事に疑問を抱く。


「これ、新か?ゴほっ。Xtubeで何やってんだ?」


「やられたっ、クソッ!」


「ノエル?どうした、おい」


 机を蹴り飛ばし破壊するノエルの目は、興奮から縦に割れていた。

 初めて見る彼女の剣幕に、東条も怒りを忘れ唖然とする。


「……フシュルルル……、その動画見て」


「あ、ああ」


 彼女がここまで感情を爆発させたことは、自分が知る限り今までに一度もなかった。

 周囲の魔力が粟立つ程の、明確な怒気。この動画がその原因だというのか。


 言われるがままに東条は再生ボタンを押す。


 ……そして目を見開いた。新が口にした、動画の内容に。




『今から皆さんに、魔力で身体能力を上げる方法を教えます』




 画面の奥の彼は、明らかに身体強化を纏っていた。

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