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「――ッッ⁉」
腹に響くような音が鳴り、瞬間、すぐ隣の機器類がコンクリートごと削れ飛んだ。
遅れて途轍もない破壊音が耳を焼く。
(なッ、んだ⁉)
咄嗟に音の鳴った方を見てみれば、かち割れたガラスの奥、バスローブ姿の二人が立っている。
その内一人が、アンチマテリアルライフルを自分に向けて。
(――っあれを、撃ったのか?人に向けて⁉)
その躊躇いのない狂気に、朧は自身に身体強化(通常)をかけ、迷わず物陰を飛び出した。
彼の姿に東条とノエルも気付く。
「お、いたいた」
「逃がさない」
ノエルが右手を翳す。
対する朧はライフル弾を躱す為、高速でジグザグに走りながら魔力を練る。
そして、
(――っメランジェ)
一瞬にして姿を消した。
「っ透明化かよ。スゲェな」
「追える?」
「愚問」
姿が消えたと言えども、魔力の軌道は必ず残る。
並みの生物なら混乱する技でも、魔力に慣れ親しんだ二人には効果ない。
という事など、朧とて理解している。
(――ッ!落ち着けっ、落ち着けっ!)
彼は屋上を貫き生える無数のうねる植物を躱しながら、cellを発動する。
その変化に、東条が目を凝らした。
「ん?何だ?」
「チっ」
一気に存在が薄くなる朧にノエルは焦り、巨大なハエトリグサを顕現。
屋上を巻き込み、彼の足場ごと捕食した。
しかし瞬間、バチチッと鋭い音が鳴り、植物に青白い線が駆けると同時に一部が焦げて弾け飛ぶ。
電撃。
そう二人が理解するよりも前に、彼は準備を終えていた。
(――ペルフェクシオンッ‼)
ハエトリグサから飛び出した彼の、魔力、気配、全てが消えた。
朧を完全に見失った東条が瞠目する。
「消えた!スゲェ!」
興奮する東条を遠目に、空中で朧はほくそ笑む。
自分の力は、彼等をも欺き得た。それは自分が、魔境の第一線で生存できるということに他ならない。
さっさと帰って大学を出よう。
そう思考を切り替える彼は、……またも彼女の力を読み違えた。
ノエルが大きく腕を広げるのに呼応し、地響きと共に巨人の手が大地から生える。
「……甘い」
朧の浅慮を笑う様に、彼女は思いっ切り両手を組み合わせた。
動き出す腕。
閉じる掌。
「……ははっ」
未だ中空の彼は、迫りくる巨腕を避けることが出来ない。
その威容を、ただただ唖然と眺めていた。
「……蚊って、こんな気分なのかな……」
そんな朧の思いは轟音にかき消され、マンションの上階全てが両手の中に収まった。
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