第126話

――ノエルがワクワクとコースターに座る中、東条は操作室にて、訳の分からないボタン達と睨めっこをしていた。


「まぁ、死ぬこたねぇだろ」


 幾ら考えても分からないと判断し、適当にボタンを押しまくる。

 すると、外でコースターが稼働する音が聞こえた。


「まさーーっ、動いたー!速くーー」


「へいへい、っとッ」


 すぐに飛び出し、足を武装、跳躍。


 上昇中のコースターに飛び乗り、ノエルの横に着席。洗濯機を後ろに座らせた


「わくわく」


「安全バーちゃんと下ろしとけよ」


「安全バー?」


「この上の奴を、こう……あれ?」


 なぜだろう。搭乗者の命を繋いでくれるはずのそれは、ピクリとも動こうとしない。


 上昇し続ける二人の目前には、既に頂上が迫っている。


「ちょ、マジで、下がっ」


 バキィッ


「……」

「……」


 東条の手元に残る、千切れた命綱。


 ……顔を見合わせ、


 瞬間


「うぉおおおおおおお!」

「ぁははははははは!」


 急降下と同時に全身が持ち上がり、腕二本で身体をたなびかせる。


「やっべ吐きそう」

「あはははははっ!」


 爆笑するノエルの隣で、青い顔をする東条。


 そもそも彼は絶叫系が得意ではないのだ。

 色々強くなったから大丈夫と思っていたようだが、別にそんなことは無かったらしい。


 強風の中無理矢理腕を引き、本来の態勢に戻る。


「きもちわる」


 あと少しでゴールだ。

 酷い体験をしたが、新しい発見ができたから良しとしよう、と自分に言い聞かせた所で、


「……は?」


 コースターがゴールを通過。


 二周目に突入した。


「きゃーー!あはははっ」


 楽しむノエルに反して、東条は絶望する。

 十中八九自分がボタンを押しまくったせいだろう。


(いっそ飛び降りるか?)という思考が過る中、

 気付く。


「……なんか、加速してね?」


 見るからに速くなっていくコースターに青ざめ、手すりにしがみつく。


 二周半。



 最後のカーブ。



 速度は一週目のほぼ二倍。



「……嫌な予感がする」


 そんな彼の予感は的中。


 限界速度に到達したコースターは線路を突き抜け、正にジェットの如く空を舞った。


「ギャアああああッ!」

「キャアははははははっ」


 木霊する二つの叫び声は、真っ白なドームの天井をぶち抜き、盛大に土煙を上げるのだった。





 §





 近くから聞こえる、楽し気な絶叫。

 男は眉間に皺をよせ、奴らがそこにいることを確信する。


 自分を貶めておいて、当の本人は遊園地を満喫している。腹立たしいことこの上ない。


「……報いを受けさせてやる」


 一言呟くと。快人はその方角に向けて歩を進めた。





 §

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