第125話

 


 ――快適なリラックススペースで一夜を明かした二人は現在、ドームに併設さている飲食店の一つにお邪魔していた。


 ナイフとフォークを両手に持ち、漂ってくる肉の香ばしい香りに足をぶらつかせるノエル。


 そんな子供らしい光景を厨房から見ながら、東条はフライパンの上で油を躍らせる七枚のハンバーグをひっくり返した。



 トレントが血肉のみならず、食材と呼べるあらゆる物を捕食対象とすることは分かっている。


 そして冒険をする中で、彼等が嗅覚によってそれ等を判別している事にも予想がついた。


 どの場所でも、密封や冷凍などで臭いがあまり漏れない物は手が付けられていなかったのだ。


 冷蔵庫内などで腐敗した食材も余すことなく食べてくれるため、道すがら悪臭に悩まされることもない。


 本当に勤勉な掃除屋だ。



 綺麗な焼き色のついたハンバーグを、ノエルように五枚重ねて盛り付ける。

 残り二枚が自分のだ。


「ノエル、飲物頼む」


「がってん」


 キンキンに冷やしておいたグラスに、コーラがなみなみと注がれていく。


 カランっ、と涼しい音を響かせる氷と、その上を弾け飛ぶ炭酸が、二人の喉を強制的に乾かせる。


「へいお待ち。当店自慢のタワーハンバーグじゃい」


「おーーっ」


 強引に積み重ねられた欲の塊は、自重に耐え切れず上から下へと芳醇な肉汁を滴らせる。


 それは宛ら、黄金色に煌めく滝であった。


「いただきます」


「ます!」


 ナイフを入れると決壊する、閉じ込められていた香り、肉汁、そして、トロリと蕩ける大量のチーズ。


 ノエルは止めどなく溢れてくるそれを慌てて掬いながら、一思いに口へ放り込んだ。


 瞬間、――爆発。


 暴れる肉の暴力と、まろやかな優しさの黄金律。


 度し難いほどに絶妙なハーモニーは、牛を讃える賛美歌に他ならない。


 呑み込んで尚口内で暴れまわる牛たちを、すかさずコーラで押し流す。


 喉に響き渡る強烈な快感が、涙となって溢れ出た。


 下手な感想など必要ない。


 胸中を支配する感情を、言葉のままに曝け出す。



「んんんんんまぁい!」



「はははっ。そりゃ良かった」


 ただただ、それに尽きるのであった。




 ――「この後は?」


「ふぇっふぉふぉーふ「わりぃわりぃ、呑み込んでから話し」


 口いっぱいに頬張るノエルに笑って謝る。


「――んぐっ。ジェットコースター乗りたい」


「あぁーあれか」


 ここからでも見える、長大な線路。

 所々トレントに浸食されてはいるが、電気も通っているみたいだし動かす分には問題なさそうである。


「いいぜ。休憩したら行「今行く!」


 最後の一口を頬張った彼女は、口の周りをべちゃべちゃにしたまま席から飛び降りる。


 東条はその忙しなさに苦笑し、ノエルをナプキンでこねくり回しながら店を後にした。


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