第127話
野球コートのド真ん中、濛々と土煙を上げるその場所に、ひしゃげた鉄塊が突き刺さっている。
ミノタウロスの攻撃に耐えた頑丈な洗濯機でさえ、くの字に曲がる程の衝撃。
もし搭乗員がいたら助かるはずもない状態だがしかし、中から煙を払い、二つの影が顔を出した。
「いやぁ、酷い目にあった……」
「ケホっケホっ、楽しかった~」
真逆の表情を張り付ける二人は、ふらふらと事故現場から離れ、ファサファサの人工芝の上に寝っ転がる。
頬に当たる、やや硬めの感触が擽ったい。
「またやろー?」
「……次は従業員がいる遊園地に行こうな」
「ん」
二度と自分では動かさないようにしよう、と心に決め、横になったまま天井の穴から差し込む光を見つめる。
ドーム内は電気が点いておらず、薄暗くひんやりとしている。
トレントもいない為、元々稼働していなかったのだろう。
怪鳥の声が遠くに聞こえ、モンスターの気配もない。
外界から隔離された静かな大空間は、なんというか……
「……落ち着く」
「ん」
数分前まで壮絶に騒がしい時間を過ごしていた彼等に、心地よいギャップをもたらしていた。
「もうちょっとここにいようぜ」
「えー。早く皇居行きたい」
ゴロゴロと転がるノエルが、東条の腹に乗っかる。
「……皇居行きたいなんて言う幼女お前くらいだぞ」
「自衛隊が戦ってた場所。面白い武器落ちてるかもしれない」
「あー」
山手線内にいた者は皆、あの大規模な戦闘に遠かれ近かれ気付いている。
東条や嘗ての仲間達も、方角とその先にある物からして、皇居で行われていたことは容易に察しが付いた。
後日ニュースにて、
『最大危険区より大勢の民間人が救出。日本はまだ負けていない!』
などと大々的に取り上げられていたが、取り残されている人間からしたら何とも思わない。
いや、彼だから何とも思わなかっただけで、憎悪を向けた者も少なくはないだろう。
何故自分達を助けてくれなかったのか。
何故自分達を置いて行ったのか、と。
東条としては、その後に魔法やcell、遭遇したモンスターの情報が開示されるのを期待したのだが、現在まで詳しいものは流れてきていない。
殺し合いを経験した者がいる以上、覚醒した人間がいるのは確実。そう彼は考えているのだが。
「武器欲しいのか?」
「違う。遊びたいだけ」
「なるほど」
大量の血が流れた戦場も、ノエルにとっては、玩具の転がる射撃体験場くらいの感覚なのだろう。
そう言われると、正直自分も楽しみにはなってくる。
過去、海外旅行に行った際は、毎度の様に射撃体験をしていた。
成長するにつれ、ショッピングモールでの買い物の方が楽しくなってしまった乙女体質ではあるのだが、ショットガンのポンプアクションと、飛び出る弾薬の音に興奮を感じたのは今でも覚えている。
「なんか俺もやりたくなってきたわ」
腹の上で転がるノエルを持ち上げ、
「おー。行く?」
「行くか――ッ⁉」
唐突に飛来する土塊を跳び起きて躱した。
轟音を立て、三mはある質量物が三つ、東条の寝っ転がっていた位置に直撃した。
「なんだ?」
「……あいつ」
脇に抱えられる彼女が、薄暗い選手入場口を指さす。
……そこには、
「良い反射神経だね」
悠然と歩いてくる快人の姿があった。
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