第119話
「君達、心優しい旅人が食事を恵んでくれるようだ。一度外に出てくれ。早く」
突然の指示に狼狽える避難民だが、抵抗する意思もない彼等は怯えながらも快人についていく。
外に出た総勢二十数人の集団は、自分達の先に四人の若者がいるのを見て安堵した。
普段から素っ気なくも、優しく接してくれるα、β隊の八人は、快人なんかよりもよっぽど信頼できる人達だ。
そんな四人の方に歩き出す集団を確認し、……快人は背を向けた。
「キララ、もう少し下がってくれ」
「わかった」
「……あれ?快人さ「グランドウォール」
立ち去る快人に気付いた一人が名前を呼ぶも、声は届く前に堅牢な土壁に阻まれる。
一瞬にして拠点を囲む様に自分達とを分断した五mの壁に、誰もが唖然とする。
そして脳裏を過る。囮の文字。
「嘘だろ⁉」「お願い助けて!」「子供だけでも!」
大騒ぎになる、寸前、
「落ち着いて下さい!大丈夫ですから!」
快人が壁を張ると同時に開けた穴を通り、中年が声を張り上げた。
「リーダーはこの方を信頼していないだけです!皆さん普通に戻れますので心配しなくて大丈夫です!」
前に出る東条に数人が怯えるが、お構いなしに洗濯機を地面に下ろす。
「こん中に食べ物入ってるんで、好きなだけどうぞ」
そう言って再び下がる東条は、彼等を怖がらせないよう、なるべく距離を取って地べたに腰を下ろした。
大量の食料を配っていく中年と、その周りに広がる食事風景を遠目に見る。
「ガリガリ」
「あぁ。まともに食わせてもらってないんだろうな」
コンビニで聞いていたため、然程驚きはしない。
「可哀想?」
「別に」
東条は大して興味も無い、と空を見上げ、ふわふわと揺蕩う綿雲を眺める。
「何もできないし、何もしないし、何もしようとしてないんだろ?じゃあ戦える人間優先に飯配んの当然だろ」
嘗て自分がいた場所では、皆が一人一人出来ることを探し、互いに尊重し合い助け合っていた。
全力で生きていたからこそ、誰も卑屈にならず、自暴自棄に陥らなかった。
自らの存在意義を確立するというのは、集団の中では必須のスキルだ。それで心持も変わるし、活力も湧いてくる。
ただそれも、上に立つ者によって大きく左右されるのは否めない。
もし自分が最初からあの場にいて、有り得ないがリーダーをしていたら、きっとここと似たような環境になっていたのではなかろうか。
そう考えるとあのメンバーは、とても稀有な人材が集まっていたのかもしれない。
……割れたブローチを空に掲げ、透き通る紫を懐かしんだ。
「同感」
「ははっ、冷たい奴だ」
「何で邪魔者扱いするのに助けた?」
「まったくだな。バカなのか何も考えてないのか、大方力に酔って悦に浸ってるとか、そんなとこだろ」
女でも、金でも、力でも、価値あるものを手に入れると人間は増長しやすい。自分もそれは身に染みている。
「……あ、ハンバーグ」
「……大福じゃね」
雲の形で遊びながら、彼等の食事が終わるのを待った。
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