第116話

 

 ――「あの、あなた方は人ですか?」


 中年の男は東条達を見て狼狽える。

 目の前に現れたのはモンスターではなく、顔が塗り潰された男と、どう見ても日本人ではない、というより人外の美しさを持つ少女。


 でもなぜか丸眉。


「人ですね」


「愚問」


 失礼なことを聞いた、と中年が頭を下げる。


「申し訳ございません。何分外で人に会うのは久しぶりでして」


「気にしないでいいっすよ。立ち話もなんですし、どっか入りません?」


「え、えぇ。では」


 東条に促されるまま、四人は慎重に辺りを警戒しながら進み始めた。




 ――コンビニに向かうところだったと聞いた東条は、「だったらそこで話しましょう」、と彼等の先頭をズンズン進んで行く。


 四人は焦るように彼の後に続いていた。


 普通の徒歩とは言え、いつもの自分達の三倍は速いスピードで歩く二人に、我慢できなくなった中年が口を開く。


「……あの、同行してもらえるのはとても有難いのですが、そんなに急いでもらわなくても。

 モンスターが襲ってくるかもしれませんし、その、警戒しなくては」


 周りを忙しなく見回し、過剰なほどに怯えた素振り。

 しかしそれは東条から見た感想。彼等の警戒は至って普通であり、褒められるべきものである。


「……皆さん属性魔法、は無理か?強化辺りかな、使えますよね?」


 東条は彼等のことを、感じる気配からしてそれなりに戦える人達だろうと推測をつけていた。


「え、えぇ。なぜそれを?」


「勘です。質問なんすけど、ぼんやりと俺とか仲間から何か感じません?」


 魔力の知覚は分からない人に説明をするのが難しい。適当に聞いてみるが、


「……いえ、とくには何も」


「私も」


「俺も」


 「僕も」


 反応は無し。しかし、その答えに東条は納得する。


「人は魔力に疎いのかと思ってたけど、単純にそこまで来てないのか」


「ん。実力不足」


「言い方きついぞ?」


「ごめ」


 考えていたのだが、もし自分達がモンスターも近寄りがたい程の圧を放っているのなら、人間も少なからずそれに気づくのではなかろうか。


 初め四人に会った時、それで警戒されていると思ったのだが違ったらしい。


 加藤さんや温泉ラッコが反応しなかった時点で大体の察しは付いていたが、どうやら、意識して魔力を振りまかない限り、一定の実力にない者は分からないようだ。


「……あ、あの、ちょっ」


 四人は、再び歩き出してしまう二人に、疑問を抱いたままついていく。


「あれです。俺達そこそこ強いんで、雑魚はあんま襲ってこないです。強敵来たら頑張って逃げましょう」


(……な、何なんだこの人達は)


 いい笑顔(真っ黒)でサムズアップする東条に、四人は懐疑の目を向けずにはいられなかった。

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