第115話
§
「「「――ッ⁉」」」
「な、なんだ⁉」
警戒に警戒を重ね目的地を目指していた四人の男女。
何かの破裂音の直後、民家をぶち抜いてきた、瓦礫に埋もれるそれに驚愕する。
「……死、んでる?」
見たことのないモンスターの首なし死体は、当然かなピクリとも動かない。
「い、一旦隠れましょうっ。音に集まってくるかもしれません」
中年の指示に従い、四人は恐怖に固まった筋肉を叱咤して近くの民家に息を潜めた。
――暫く外の様子を窺っていると、複数の足音が聞こえてきた。
さっ、と窓の下にしゃがみ、近づいてくる音をやり過ごすべく息を殺し耳を澄ます。
心臓の音がうるさく響き、口の中が乾いていく。
死への覚悟など、そうそう出来るものではない。
今まで生き残って来たからと言って、今日死ぬかも分からない。
恐怖と懇願に、震える拳を握りしめた彼等は、
徐々に響いてくる話声に目を見合わせた。
§
――「……できたか?」
「あとちょい」
東条の背中でパソコンを弄るノエルは、先程思いついた案をプログラミングに書き込んでいく。
というのも、
「バトルシーンだけ有料化するっつっても、俺ら金保存する場所なくね?」
「ダイジョブ。ポイント化して後で換金できるようにする」
「はー。そんなことも出来んのか」
彼女が考えたのは、よくあるプレミア会員制度の導入。
モンスターの特徴や戦闘方法など、羽振りのよさそうな連中が欲しがりそうな情報の大体が、バトルシーンに集約されてしまう。
しかしだからと言って一切の情報を秘匿してしまうと、相手方が此方に要求する際、欲しい情報を明確にできない。
ならばいっそ、バトルシーンはそれとして全国民から金を毟り取ればいいと考えたのだ。
会話でも、バトルでも、これはマジで売れると思える箇所だけ、適当に切り抜いてしまえばいい。
彼女の労力は多少増えるが、ノエルにとってもこれくらいなら許容範囲内であった。
「モザイク処理とかは?」
「めんどくさいし、多分そーゆーの欲しがる人間はモザイク剥がす技術持ってる」
「なるほど」
機械面で何も分からない東条は、動画関連の全てをノエルに任せている。
彼女のやる事は間違いないと信じているし、正直ミスしても間違っていても別にいい。
自分は楽しく冒険できて金が稼げればいい。
彼女のやりたいことなのだ。彼女が楽しければそれでいい。
「まさの名前のとこは全部切り取ってるから」
「ありがとな」
他意のない思いやりに身じろぎするように、ノエルを背負い直す。
「じゃあ今回のcellは切り取んのか?」
「取らない。何だこれって思わせて、知識欲を擽る」
「おー流石」
「でも能力の詳細は聞かれても明言しない。他人のはどうでもいいけど。
交渉する相手として、ノエル達は脅威であるべき」
彼女の合理的発想に東条は納得する。
自分達の生き方的にも、武力は一番の脅しになる。
別に隠す気も無いので、バレたらバレたで割り切れるが、『確証がない』というだけで手綱の握りやすさには天と地程の差ができる。
「……よし。終わた」
彼は背負っていたノエルを降ろす為しゃがみ、
……そこでどうしてかノエルが止まる。
「まさ、あれ」
「あ?……人じゃん」
彼女の指さす先には、民家から恐る恐る出てくる四人の男女がいた。
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