第114話
「……強ぇな」
牛頭の魔物、ミノタウロス。単純な膂力はゴブリンキングと同等かそれ以上、魔力量は自分と同じ位か。
「撒ける?」
「やってみっ、かッ」
「ゴブルァ‼」
踏み込み、一気に駆け出す。
戦闘を楽しむ節のある東条だが、自分から死に首を突っ込む様なバカな真似は基本しない。
面倒臭そうな相手とはなるべく戦いたくないし、やり過ごせるならやり過ごしたい。
絶対に勝てる相手とだけ戦いたいし、そっちの方が楽で楽しい。それが彼の本音であり性根だ。
槍の様に飛んで来る電柱が地面に突き刺さるのを横目に、再度跳躍してミノタウロスの拳を躱す。
木々が吹き飛び、地面が放射状に罅割れた。
同程度の魔力で殴り合えば、勝敗が分かれるのは単純に肉体性能の差。遺憾ながら、今の東条と言え、それに関しては向こうに軍配が上がる。
久しぶりに出会った、格上。
「無理っぽい。使うぜ?それともお前がやるか?」
「よろ。じゃあ倒しちゃお」
「はいよ」
ただしそれは、cell抜きでの話。
パワーぶっぱの筋肉達磨など、彼にとって手玉以外の何物でもない。
顕現する漆黒はノエルとリュックも一緒に包み込み、傍から見たらその姿は二足歩行のカメの様にも見える。
動画ではもう少し後に見せて更なる話題を呼びたかったが、流石特区、そう簡単には進ませてくれない。
「普通に外見える」
「そりゃそうだろ」
不思議な感覚にキョロキョロするノエル。
東条の腹にミノタウロスのボディブローが突き刺さった。
「手、おっきくない」
「ありゃ本気モードだ。なんか色々疲れるから普通はやらん」
ミノタウロスの殴打が彼の顔面を襲う。
「ノエル強かった?」
「いやめっちゃ強かったぜ?あのパンチは一点集中してなかったら普通に死んでた」
「惜しかった」
「惜しかったじゃないわ」
電柱を引き抜き、ぶん回し殴りまくるミノタウロス。
しかし全く動かないそれに、遂には鼻息を荒くして一旦攻撃を止めてしまった。
「ブフゥ、ブフゥ――」
「……んじゃ、終わらせるか」
「ん」
全力を尽くしてくれたミノタウロスに向き直り、彼は大地を蹴り砕いた。
「――っ」
ノエルはその馬鹿げた加速に目を剥く。風圧やGを感じることはないが、今まで飛んでいた景色が、一瞬線になったのだ。外から見ても凄かったが、体感するのとではまた違う。
彼女は錯覚的な勢いに呑まれながらも、しっかりとカメラを握った。
「――ッブる「フッ」っボォえッ」
風を切る電柱を潜って躱し、低姿勢からミノタウロスの腹を蹴り上げる。
深く突き刺さりめり込む一撃は、その巨体を軽々と天高くに打ち上げた。
四肢を付き真上に大跳躍。
同じ高さまで跳んだ東条は、悶えるミノに狙いを定め、
「おうルァッ‼」
「ブ――
全身を使った回し蹴りが側頭部に炸裂し、そのまま頭蓋を爆散。豪速で吹っ飛ぶ首なしの身体は、眼下の民家を一、二軒貫通して土煙を上げた。
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