第80話

 


 §



「何だ、これは……」


 夜が明けてまだ早く、我道その他は岩国から渡された動画と写真を手に瞠目する。


 一つは、夥しい数の鳥型モンスターに襲われ、次々と落ちていく偵察用ヘリコプター。


 もう一つは、路上、建物、至る所から生える木々。


 ヘリコプターを襲う行動はまだ分かる。


 しかし、この植物は何だ?一体いつの間に現れた?


「分かりません。この木が現れた瞬間を誰も見ていないと」


「……そんなバカな。皇居内に入られてはないだろうな?」


「はい。見張りからそのような報告は貰っておりません。木の分布も不気味なほど綺麗に皇居を避けています」


「それなら今はいい。防衛ラインの状況は?」


「第一から第三の防衛ライン、構築完了です。現時点、地、空、両敵性生物は第一と外からのスナイパーで対処可能とのことです」


「分かった。引き続き警戒を頼む。それとヘリは今後使わせるな」


「分かりました」


 部屋を出ていく岩国を見届け、背凭れに体重を預ける。


 夜通し状況の把握と整理に勤めていた我道は、疲労がたまって重い目を揉み解した。





 §





 皇居南方。


 警視庁隷下の特殊部隊班により、数人の生存者が保護されていた。


「もう大丈夫です。今から我々が安全な場所へ送り届けます」


「有難うございます、有難うございます――」


 涙ながらに感謝する民間人を連れ、木々を抜けていく。



 しかし皇居までは中々距離がある。精神的にも肉体的にも疲れている一般人からすると、その道のりは例外なく険しいものであった。


 歩くペースは次第に遅くなり、モンスターに見つかる危険も自ずと増していく。


(……車両が使えないのは厄介だな)


 何故か土へと変化した地面を踏みしめ、極端に移動手段が限られてしまう事への不満を内心吐き出した。


 そこへ、


「キチチチチ――」


 皆の足が止まり、四人は銃を構える。


 何処からか聞こえてくる奇妙な音。林に反響して場所が分かり辛い。

 まるで固い物を高速で打ち付けている様な、これ以上来るなと警告している様な。


「……九時の方向だ。構えろ」


 班長の指示に一斉に銃が向いた。途端、


「キシェェェエッ、ゲギゲゲゲ……」


 樹冠の中に隠れていた巨大なムカデが彼等に襲い掛かった、と同時に短機関銃の掃射を喰らいムカデはハチの巣になる。


 一瞬の攻防。民間人は叫ぶ暇すらない


 安堵する彼等だが、しかし本当の危険はここからだ。


 人間を敵視する奴らが、銃声に反応しないわけがない。


「急ぎます。一旦隠れられる場所を探しましょう」


 まず林を抜けようと、彼等は足を速めた。



 急ぐ先に大通りが現れる。周りには木もあまり生えていない。


 あの場所なら、


「あそこの店舗――ッ⁉」


「――っ」


 林を抜けた直後、横から猫科のモンスターに突進され、先頭を行く班長が押し倒される。


「ガルㇽㇽㇽッギャンっ⁉……」


 班長は咄嗟に銃身を口の間に挟み、ナイフで首を一閃。

 飛び退いたところに数発撃ちこみ、すぐに立ち上がった。


「無事ですか?」


「あぁ、……」


「……囲まれましたね」


 木陰から出てくる六匹の獣。文字通り逃げ場はない。


 唸りながら近づいてくる奴等。


 しかし、モンスターと四、五メートル距離を置く四人の顔に、焦りは見えない。


 なぜなら、


「……この位置なら恐らく」


 班長がちらりと六本木ビルズの屋上を見る。


 瞬間、一気に四匹の獣の頭が血を吹いた。


 その隙をつき、残る二匹を穴だらけにする。


「敵生体沈黙。クリア」


「……流石の腕だな」


 事前に援護射撃の場所を聞いていた四人。


 感謝の意を籠め手を高く上げた四人は、休憩を求めてビルに向かった。





 §




 皇居西方。


 五人の黒迷彩が潜伏しながら、ある一点を注視していた。


『こちらΒベータ隊・第一班。新宿御苑内にて例の球体を発見』


『分かった。カメラ設置の後、引き続き周辺の調査を頼む』


『了解』


 班員に命じ、草陰に四つのカメラを仕掛ける。


 何故か沈黙したまま消失しない球体からは、歴戦の彼等をしても異様な圧迫感を感じる。


 任務を遂行し、その場を離れようとしたところで、


「……隊長、敵生体の接近を確認」


 進行方向に三体のゴブリンが現れた。



「ゲ?ゲギャギャ」


「グギャ」


 ゴブリンは鼻をひく付かせるも、漂う臭いが曖昧で充分な情報を得ることが出来ない。

 確かに美味そうな臭いを感じたのだが……気のせいか。


 そう考え警戒を解いた。


 瞬間、


「カヒ」「ヒュっ」「――っ⁉……」


 ぬるりと木陰から現れた三人が、流れる様にナイフで首を刈った。


 叫び声も上げられず、三匹はゆっくりと地に寝かせられる。


「クリア」


「クリア」


「クリア」


 何事も無かったかのように血を拭い、彼等は走り去った。


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