第81話

 


 §



 皇居東方。


 昨夜の内に東京駅を通過したΑ隊・第一班の十人。


 皇居避難民をこの地獄から救い出す糸口となり得る彼等は今、人形町付近で派手な銃声を轟かせていた。


「六時の方向、獣型接近!数は五」


「九時、昆虫型!多数!」


 絶え間なく襲い来るモンスターを撃ち殺しながら、合流地点へとひた走る。


 複数の手榴弾が爆音を上げ、奴らの甲殻が粉々に弾け飛んだ。


「隊長、弾数が持ちません」


「あと少しだ。弾が無いなら殴り殺せ」


「っ了解」


 大通りに出た彼等は、乗り捨てられた車の上を駆けながら小型爆弾を投げ捨てていく。


 最後の一人が飛び降り、木の後ろに隠れた瞬間――


「起爆!」


 一斉に起爆装置のボタンを押す。

 人間を追いかけ、一本道に雪崩れ込むモンスターの足元。




 ――滅殺の光が瞬いた。




 空気が膨張し、音が消える。


 車に引火し、連鎖大爆発を引き起こした赤色の死は、人敵の悉くを滅ぼし黒煙を靡かせた。



「今だ、走れ!」


 地を蹴り、土を飛ばす。



 隅田川を目に映した辺りで、再び四方八方から音に釣られモンスターが集まって来た。


「グルァッ!」


「――ッ」


「バギャ⁉」


 横から飛び掛かってくる獣を銃身で殴り飛ばし、ナイフで切り裂き、走る、走る、走る――。



 前方で集団の間に、全力で飛び込んだ。



 地に転がる彼等の後方で連続した銃声が鳴り響く。


「お疲れ様です」


 荒い息を吐く十人に、そっとタオルと水が差し出された。




 場所は隅田川を横断する、清洲橋が上。


 α隊・第一班の目的は、進路上のモンスターの確認、加えて彼等との合流であった。


 彼等はのモンスターを、に行かせないための部隊。

 そこから分かるのは、あちら側には戦力を裂く余裕があるということ。



 隊長は一度後ろを向き、自分達が通ってきた場所を見る。


 コンクリート群から歪に生える、魔の緑化地帯。



 ――対して対岸の街は、茜色の空の下、何も変わらない穏やかな時間が流れている。


 橋一つ隔てただけ。



 されど両者は、空間も、時間も、恐怖も、安寧も、何もかもが隔絶してしまっていた。

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