第34話



「うし、お待たせ」


「えぇ。紹介したい友人がおるの、夕飯はその子と一緒に食べましょ?」


「いいぜ。黄戸菊の命令は絶対だからな」


「ふふっ、命令なんてしてへんわぁ」


 歩く彼女の手は、すっかり乾いていた。





 ――二人が座る前には、幼女と赤子を抱く母親がいる。


「……おい、こんな格好の奴、幼女の前に連れてきちゃダメだろっ(ボソッ)」


「くれぐれもバレへんようにね?(ボソ)」


 優しく微笑む彼女に恐怖し、布団の繋ぎ目を強く握りしめる。


 これ以上失態を晒すわけにはいかない。未来ある幼女にトラウマを植え付けるわけにはいかない。


「初めまして。先ずは数々の御見苦しい姿を見せた事、深く謝罪します」


 とりあえず母親に頭を下げておく。和気藹々はそれからだ。


「いえいえ、お気遣いなく。紗命ちゃんが連れてきたのだから、いい人なのは分かりますよ」


「有難うございます」


「……ねぇねぇ、なんでおふとんにくるまってるんですか?」


 東条の奇怪な見た目に、当然かな幼女が興味を示してしまう。


「ん?俺寒がりなんだよ。こうしてないと動けないんだ。お名前なんていうの?」


「はるの 花です。八歳です」


「綺麗な名前だね、俺は東条 桐将。二十二歳です。よろしく」


「よろしくおねがいします」


 器用に繋ぎ目から手を出し握手をする。


「私は春野 蕾。この子は娘のあさがおです。よろしくお願いします」


「こちらこそ」



 ――「……あったかそう。花も入れて?」


 他愛もない会話をしていると、突然花氏がとんでもないことを言い出した。


「え、いや、すまない。これは一人用なんだ。無理なんだ」


「えーいじわるー。お兄ちゃんだけずるいー」


 花が掛布団に手をかけようとし、東条は必死にそれを躱す。


「ダメだっ。この下には無限の宇宙が広がっている、君にはまだ早いっ」


「あははっ、まてー」


 風圧で翻らないようにぎこちなく走る彼を、面白可笑しく幼女が追いかける。


「……最初見た時はびっくりしたけど、良い人だね」


「はい。半裸ですけど、根はええ人なんです」


「ふふっ」「ふふっ」


 冷えた夜に笑いを届ける二人を、女性二人だけでなく、屋上の皆が温かく見守っていた。

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