第6話
「~~~首いって」
大きなあくびを一つ。慣れない態勢で寝たつけを支払わされる。
東条が首の付け根をさすさすしていると、背中に違和感を感じた。異様に軽い気がするのだ。
リュックを下ろし中を見てみると、服一式と飴玉全部がなくなっていた。
落としたのかと思い下を見てみるが、何もない。
……気味が悪い。
彼は武器を持ち、辺りを警戒する。
が、よく考えたらここまで近づいても、私物を取っただけで傷一つ負わされていない。周りにモンスターがいないのを確認して下に降りると、……またもや何か違和感を感じる。
(……なんだ?――)
近くを見渡し、探る。
綺麗なタイル、エスカレーター、倒壊した棚――
(棚?……この棚……)
もう一度同じ場所を見て、気付いた。
場所だ。場所が違う。自分が木に登った場所と、降りた場所があっていない。
東条は理解する。ここは自分がゴブリンと戦った場所だ。何故か死体どころか、血の一滴も残っていないから気付かなかったのだ。
(……何なんだこいつ)
彼はこのミステリーを作り出したであろう犯人を見上げる。
木なのかモンスターなのかはっきりしてほしい。
観察していると、木の幹に何か張り付いてるのに気付いた。
近づき、よくよく見てみると、
(……ゴブリンの腰布?)
布らしき物が二着、木にめり込んでいた。
まるで内側から染み出てきたように、木と一体化している。
その隣に同じ状態のカラフルなゴミをを見つけ、嫌な予感がし、木の裏に回ってみると――
ジャンパーTシャツ肌着ジーパンベルト、自分の服一式がめり込んでいた。
それとは別に、女物の服もめりこんでいる。謎すぎて謎。
東条はフロアの真ん中で突っ立っているのもどうかと考え、再び木の上に登り、この木が安全かどうかを考える。
順番が逆な気もするが、この世は既にファンタジー、ゲイボルグ的理論もまかり通る。
東条は今までの経験から、木の生態の憶測を立てた。
・この木はおそらく雑食。飴と死体の偏食家でなければ、食えるものなら何でも食いそうだ。
・食い物を求めて歩くことができる。移動の跡がないのは知らん。
・餌と一緒に取り込んだ異物を幹に排出する。服がとられたのは大量の血が付着していたからだと思われる。
・生きた生物は襲わない。身をもって実験済み。
「安全っと」
引き続きここを住居にすることが決まったわけだが、
「……」
木から降り、女性服の前で黙祷を捧げる。
仮説が正しければ、つまりそういうことになる。
「――使わせてもらいます」
彼なりの、誠意と優しさの表れだった。
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