第7話

 ――東条は漆黒を弄びながら、十一階フロア、家庭用品・インテリア・バラエティ雑貨の階を散策する。


 その足取りはどこか軽いようにも見える。

 仕方がないといえば、仕方がないのかもしれない。


 今まで妄想の中に留まっていた力が自らの手元にあるのだ。能力は全く分からないが、興奮しないわけがない。





 ――一時間ほど経ち、彼はTシャツに腕を通しながら出来上がったツリーハウスを見上げる。


 ハンモック、ハンガー、水筒、武器を入れたリュックは、できるだけ高い位置の、それも太い枝を支えにして吊るされている。


 葉量が多いため、ハンモックやリュックなど、先から入れなければいけない物には苦労させられた。


 しかしそのかいあって、簡素ながらもどこかロマンを感じる夢のマイホームが出来上がった。




 東条は出来立てのベッドに寝転がり、採れたてのグミを口に放り込みながら、モバイルバッテリーに繋いだスマホを弄る。

 自分が戦っている間に、日本全国も、いや世界も、なかなか大変なことになっていた。


 例のドブ球は東京を始めとした都会を中心に、日本全国に現れていた。


 ドブ球の大きさは地域によって違うようだが、その中でも特に山手線エリアに出現したドブ球は危険指定されていた。


 そしてここ池袋が、日本で群を抜いてやばい場所だという表記もある。  


 自衛隊の掃討作戦は順調に進んでいるらしい。


 現時点で、大量に出現している敵性生物単体の戦闘力は大して高くなく、銃火器で充分対抗できていた。


 中には効きずらい者や、全く効かない者もいるらしく、対策が急がれているようだ。



 ……順調、そう言われても……。


 彼は自衛隊の派遣先と、交戦地帯の大雑把なマップと名前を見る。


 ここ近辺の地区の名前は一つもない。


 皇居周辺に大量派遣されているようだが、守っているものがものだ。この隊がこちらに動く事はないと考える。




 そしてそんな彼の予想は、残念なことに当たっていた。


 厳密には、池袋周辺にも自衛隊は来ていた。しかし壊滅速度があまりにも早く、情報規制が敷かれているのだ。


 山手線エリア内にある数々の重要施設、要人護衛の為、人員を無暗に死地に送ることはできなかった。


 市民の知らぬ場所で、非情な決断がされているのが事実なのだ。

 命に優先順位をつけなければならない、それが権利者の宿命であり業だ。


 特別危険区域指定、通称デッドゾーン指定された山手線内は、現在も成果が出ていない。



(……助けが来るまで動かないのは愚策だな)


 上の考えなど知る由もないが的は得ている東条が、恐怖と好奇心の間で揺れていると、数ある情報の中一際ひときわ目を引くものがあった。



【魔法】の発現。



 誰しも一度は夢見る、超常の力の名がそこにはあった。


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