弾丸里帰り 2



計算してみよう。



明後日にはお通夜が始まる。

つまり私は、明日には富山王国へとついていなければならない。

いや、そう言うと語弊があるか。最悪お通夜当日にはついていないといけない、というか朝からお通夜の準備をする必要があり、手伝う必要があるので前日に到着している必要がある。

そうなると、出発は、明日の朝だ。AEO〇がやっている時間ではない。


家の問題でもあるのだが、私たちが里帰りしているときに借りている部屋は、猛将さまの隣の部屋。その部屋は、床の間――つまりは、仏壇の間だ。


猛将さまがお眠りになった今、そこには猛将さまが横になっているのは間違いない。私の部屋? そんなもん、実家の姉さまとその子供に占領されててすでにないわい。


私たちは、富山王国に帰ったとしても寝泊まりするところがない。ということは、どこか駅前なりなんなりでホテルを取らなければならない。


こういうことはいってはならないが、とんでもない出費である。

そりゃもう、ホテルも安いホテルを取るしかない。

しかも夏休みに突入していて、且つどうやらその日近辺はそれなりに大きなお祭りがどこぞの市で行われるらしいので、ホテルの予約もいっぱいである。まさかの満室に、戦々恐々とするわけである。一部屋二万以上の部屋を男と女で別れて二部屋取るとしても、とんでもない出費である。

そんなことにならないよう、一万円以内が望ましい。


とか考えているのに、全てを台無しにする言葉が目の前の店員から発せられた。


頭は一瞬にして真っ白である。


喪服、間に合わないじゃん、と。




ぴろりん。



私のスマホが、ぶひる。

LI〇Eのメッセージだ。



『お坊さんがその日は都合が悪いし仏滅だったりも関わってくるから、日にちがずれました。三日後にお通夜です』



天の助けか!?



一日延びた。であれば明日取りにくれば間に合う。

なんだよ、こんな急がなくてよかったじゃん(主にティモシーが)



ティモシーもほっと息を吐く。

では、明日はゆっくりできるじゃないか。むしろ元々会社が休みだったので普通に休みとなった。


色々急いだので、私の喪服以外は準備も終わった。急いだ甲斐もあったというものだ(ティモシーが)



そうなってくると、ちょっと心に余裕が出来てくる。

ホテルもなんだかんだで一万円未満のホテルの予約もできた。ただし、どうやって車で入るか分からない、ほぼ一方通行の道の謎の細い道ばかりのところにあるホテルだ。いや、駅前なんだよ? 富山駅前のホテルなんだけども、富山駅前って、歩いてみるとわかるんだけど、すっごい細い道ばっかなんだよ。


「……まあ、当日調べつついけばいいか」


我が家の新たな愛車、ルーミーこと白龍さんについた、我が家初のカーナビさんが唸ることだろう。


「それと、二日の宿泊費は厳しい」

「そりゃそうだ」


お通夜の前日につくとなると、お通夜当日もホテルを取らなくてはならない。そうなると、宿泊費は二倍である。まあ、取れなかったからこその話し合いになるわけだ。


それまで若干の余裕があった我が家の日程が変更となる。

お通夜は十五時頃からと日程が決まったこともあって、それならば、我が家はお通夜当日の十三~十四時くらいに実家につけばいいということになる。

高速道路の道は、おおよそ八時間。休憩いれると大体十時間。つまり、


「……その日の朝三時頃に出れば、間に合うってことか」


朝が早い。

でもそれまでは各自自由に。

連れていけない我が家の愛鳥『キー』は、ティモシーの実家にお泊りも決まった。


置いて行かれるとわかった瞬間のキーは

「キーケケ!? キーケケ! げるげるげるげげ! くっくー! キーケケ!」と半狂乱になっていたが、まあ、あちらの家族もキーの事が大好きだから大丈夫であろう。




「明日は絶対みんなで起こしあう! わかった?」

「起きれる自信はないけど、目覚ましかけて寝る!」

「私は起きれるから大丈夫にゃ!」

「よぉし! お前ら! 就寝だぁ!」




各々が、誓いをたてて、就寝。







そして当日朝。


まだ暗闇の中、パパ上はエアコンがもっさり効いて寒いとさえ思える寝室で、ゆっくりと解凍されて起きる。

あんだけ前日に、みんなで起こしあおう!と誓い合った我が家族は、全員爆睡だ!


「起きろー。起きろー」


パパ上の声が響き渡る。

誰も起きてこない。

このままではいかん。


パパ上は必死に荷物などを車に積んでいく。

その間に誰かが起きることを願う。

願わくば、誰かが一緒に荷物を積むことを手伝ってくれることを願う。






……積み終わっても、誰も起きてこないのはわかっていたさ。





「パパけけ! パパけけ!」

「うおっ! なんだ!?」

「ままが壊れた……」

「ママけけ違う! パパけけだ!」




思わず私がキーのように半狂乱である。

「パパけけ」ってなんだよ。「けけ」ってなんだよ……。



「うっさい」


そんな必死な私の声も、ティモシーには届かない。



私の中の何かが、ぴしっと壊れた(多分自尊心?)瞬間だった。







次回予告!



暗闇の高速道路を進むパパ上。

唸れルーミー。教えろカーナビ!

我に道を示したまえ!


右です、右方向です。

右方向と言われても、そこに道はない!


一歩間違えたら違う場所へと連れていかれる高速道路。

カーナビ様の示す道が、我が進む道。


夜がどんどん明けていく。照らされていく世界に、夜明けの高速道路の素晴らしさに涙が出てくる。

多分あくびをしたからさ。





次回!

富山のラーメンは、ブラックラーメンだけじゃない!

しらえびラーメン? はんっ、そんなの遥か昔のことさっ

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