学校見学の裏話
※前回とお話が被ります。
「でさ。帰ってきたはいいんだけど、あまりにも体がべたべただし、学校見学中にセバスから、パパ上、汗臭いって言われるもんだから、すぐさまシャワー浴びたのさ」
嫁であるサイヴァイアリヴィジョンことティモシーに見学の話をする。
というか、ひどくね? ぶひぶひぃって一緒に向かった父親に、汗臭いって。そりゃあんだけ汗かいたら汗臭くもなるわ! そのための香りつきのパウダーシートだってばよ! 全然意味なかったけど!
こほんっ。そうそう。
浴びるまでに、汗でぴったりくっついたチノパンやらトランクスやらシャツやらを脱ぐときも大変だった。
おまけにチノパンのボタンは、なぜかこのタイミングでぷちんっと情けない音を立ててどこかへ転がっていって、もう履けなくなったし。
いや、このボタンが取れたのは、私がぶひぃぃとなっているからではない。そうであるならむしろこの汗をかきまくって痩せたであろうウエストに悲鳴をあげるわけが……。
……
…………
……………………
え、違うよな?
着替えを取りに二階へと階段をあがる。上がりきるまでが一苦労。降りていく一歩一歩が、自分の体を支えきれないがくがくの膝に、思わず手すりに必死に縋りつく。まるで腰が抜けたかのような浮遊感を味わうはめになったぜ。へへっ、魔女の一撃を思い出すぜぇ……。
シャワーを浴びるために浴室に。
浴室の床に座って体全体にシャワーを浴びる。
シャワーを、ず~っと受け続ける。
なぜなら、体はもう力尽きた。動かない。
ただただ浴びるだけ浴び続ける。
その様は、傍から見たら「燃え尽きたアレ」である。
このままではダメだと、奮い立つ。
別のものは奮い立たない。なぜなら、いざというとき、奮い立たないのがソレであるからだ。
ぷるぷると生まれたての小鹿のように立ち上がる。
洗いきり、タオルで体を拭く。
※どこぞのビジュのいい女性向け漫画ヒーローの体拭くシーンへと置き換えてください。
トランクスを履こうと持ち上げる足が悲鳴をあげる。たたらを踏む。疲れはいきなり襲い掛かってくる。
「……待って。ここまでの話、あんたの話しか出てない! 息子っ! 息子の見学の様子を聞いてるの私はっ!」
「普通に、見学して、普通にちらりと学校を回って、普通に質問もせずに帰ってきたよ」
「……え、あまり興味なかったのかな」
「多分、疲れてたんだろう。説明のとき、軽く寝かけてたし」
「あー……そりゃそうよね」
「それよりも」
「?」
私は、この目の前の妻に、聞きたいことがあるのだ。
「なぜ、今回だけ、俺が行くことになった?」
忙しいから、ということでもない。
なぜならその日、ティモシーは、娘のチェジュンを連れて漫画喫茶に行っている。
ティモシーが休みたかったから、というなら気持ちもわかる。毎日家事に育児にパートもしているのだから休みたくなるのもわかる。もちろん、漫画喫茶に行っていたことを責めているわけではない。ゆっくりしてもらう分には私も大歓迎だ。
だけども。
「なぜ、セバスが自転車で行くときに限って?」
そう。
今までの学校見学は、全て電車と徒歩なのである。
今回だけ、自転車だった。
そこに疑問を感じた私は、勇気を出して問うた。
「え、だって」
「単純に、マップ見て、この距離をママチャリで行くとか、坂道多いとこだって知ってるし、無理だし。いやよ、あんな暑い中長いこと漕いでいくなんて」
……うん。だよね。
パパ上家は、今日も、平和である。
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