二歳だった娘と間もなく八歳の娘

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はじめに。

こちらも、以前『そんな自宅の一風景』という作品で公開させてもらったものとなります。

読まれたことのある方もいらっしゃるかと思いますが、日記として本作品に一纏めにしております。ご了承ください。


※『そんな夏の一風景』という作品の続編的立ち位置となります。


自粛して会社もちょこちょことしか行かなくなった父親ことパパ上様。

小学校も休校となり家で暇をもて余す長女と長男。

そして、聞き間違いと基本パパ上の言葉が耳に届かない嫁。

そんな四人は、今日も暇をもて余しながら昔話と言う名の黒歴史に華を咲かせます。

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「ぱぱ~。今日は皿洗ったにゃ~」


 うちの猫――娘は、今日も元気に家事手伝いをしてくれる。


 昔はそんなことせずに猫のように猫耳と尻尾をわざわざつけて家のなかを走り回っていたもんだが、こどもの日の次の日午前1時に産まれた我が家の子猫ももうすぐ八歳。


 そう思うと、子供の成長と、私の髭の伸びの成長は早いものだなぁと、雛祭り生まれの私はじょりじょりしだした髭を擦りながら猫娘の頭を撫でた。


 ん?


 元旦生まれの嫁はどうしたかって?


 嫁なら、家族全員でNHKの筋肉体操を誰よりも張り切ってやっちまって、今は二階の寝室で爆睡中さ。


 起きてきたらきっと。


「私は負けたんだ。……ほら、見てみろよ。今日がもう終わる……」


 とか嘆きながら、きっと。「おい、息子。噛ませろよ」とか。悲しさのあまり疼く犬歯を慰めるためにお決まりのジャイアンしてがしがしと、ポッキーの日生まれの息子の頭を噛みだすのだろう。


「痛いっ! つーか止めろーっ! パパ上助けてっ!」


 なんていう光景を、パパ上のぽよんとしたお腹に乗ってじゃれつく猫みたいな娘を、ペルシャ猫のように撫でながら無視する光景がいとも簡単に浮かんでしまうのも、家族の証なのであろう。


 と言うか、目の前で行われてるし。


 決して。煙草を止めて口寂しくなってお菓子をばりばり食べ続けた結果、置物狸のように太っちゃって。動きたくないから目の前で犠牲となっている息子を助けないわけではない。


 助けようとしたら、息子の代わりに私が噛まれるから助けないのだ。


「ほら、動くと痛いだけだからじっとしてなさい! 甘噛みだからっ! ちょっとだけ噛むだけだからっ!」


「噛まれたくないから逃げようとしてんだってば! パパ上、助けてっ!」


「おひげじょりじょり、にゃ~ん」



 ……うん。今日も混沌カオスだ。



 つーか、噛むって。


 つーか、このペルシャ猫みたいな娘って。


 この家の女子は、基本肉食系のネコ科が前世なのは間違いないだろう。






 閑話休題。






「そう言えば。この時期っていつもは実家でのんびりしてる時期なのに、今年はいけそうもないねー」


 家でのんびりするのも飽きた嫁は、毎年この時期は、私の実家に『高速八時間自動車旅』をしている時期だと、息子をいまだがじかじしながら言い出した。


「ぱぱー、喉乾いたぁ」

「水でも飲んでろ」


 そんな一言を受け、ペルシャ猫はキッチンへと向かう。


「そうだなぁ……流石に遠出もできないし、うろちょろするのもな――っ!?」


 そんなペルシャ猫の背中を見ながら、私の脳裏に、ふと、我が家の思い出が浮かんで消えて。


 ふふっ。


 こんなにも早くに復讐するチャンスが訪れるとは。

 息子にではないが、娘にも同じように辱めを受けた私は、訪れたチャンスに意気揚々と、


「そう言えば、あの時、こんなことがあったよな」


 と。今はもうそんなことはもう起きないだろうと思って。

 親しか覚えていないだろう懐かしい思い出話をし始めた。





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「今日は夜遅くになりそうだな」


 毎年恒例のゴールデンウィークに実家帰省をして、その高速道路の帰り道。


 相変わらずの渋滞に巻き込まれ、外の景色も夕陽が落ちる頃。


「パパ、おちかれ。ちゅじゅのおみじゅ、にょむ?」

「パパは大丈夫だから、ちゅじゅが飲んでいいよ、ありがとう」


 自分のことをいまだしっかり呼べないが、私の実家に帰ったことで刺激を受けてやっと言葉が洪水のように溢れだした娘が、私にペットボトルの水を差し出してきた。


 勿論チャイルドシートに乗っているのでちっちゃく短い両手は全く届いてないし、ミラーにちょっとだけ映っているだけではある。


 流石に私は運転中なので受け取ることも出来ないので、お礼を言ってやっと渋滞から抜け出した車のハンドルをしっかり握り締めて運転に集中する。


「やっと渋滞抜けたね」

「ごく、ごく」

「ああ。やっと……これからが長いけどなぁ」

「ごく……ぷはぁ」

「ここからパーキングないからぶっ続けだしね」

「ごきゅごきゅ……げふっ。ぷはぁ」

「ん……? おい、ちゅじゅ。後ろでなにしてる?」

「え? なにしてるって――」


 嫁が後部座席を見て驚愕した。

 そこには、涙を流しながら必死にペットボトルの水を飲み干そうと頑張る娘が。


「ちゅじゅ、ちっちゃいちゅじゅだからっ、パパが飲めって言うからっ! ちっちゃいちゅじゅなのに、もう飲めないのに。パパが飲めって言うからっ!」


 号泣しながらパパに飲み続けるよう強要されたという娘が。



「「いや、言ってないからっ!」」



 思わず後部座席にいる一人勝手に可哀想なことになってた娘を見ようと振り返る。


「運転中に余所見しないで!」

「すんませんっ!」


 なんてことがありつつ、無事何事もなく家へと帰宅。


 家についたら飲み過ぎで粗相をしちゃったあと、高速で止まれる場所もない状況だったために粗相をしたまま絶望し涙で頬を濡らし続けた娘が泣き疲れて爆睡しちゃって。


 娘が飲みきったペットボトルのお水全ての元凶がころんっと悲しげに床に落ちた。


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「――ってなことがあったなぁ」


 思い出すあの時。


 やっと言葉を話すようになった娘が、言葉を考え優しい気持ちで渡した自分のお水を、「いらんから自分で飲め」と怒られたと勘違い。


 泣きながら、後ろでパパの為に飲み干そうと頑張る健気な娘。


「あー、あったねーそんなこと」

「ごく、ごく」

「あの時のちゅじゅは可愛かったなぁ。今も猫っぽくて可愛いけど」

「ごく……ぷはぁ」

「今ではあんなに自由に動いて、喋るようになって……」

「ごきゅごきゅ……げふっ。ぷはぁ」

「「……ん?」」


 嫁と二人でしか共有されないあの高速道路の悲劇を笑いながら話していると、聞こえてくる飲料の音。


 必死にがぶがぶと、まだキッチンの蛇口に背伸びしても微妙に届かない蛇口から必死にコップに注いで水を飲み続ける娘。


 なんか、凄い既視感デジャヴ


 思わず、しーんと。


 嫁と二人でその光景に固まってしまい、「ごくごく、ぷはぁ」と、断続的に頑張る娘の声だけがリビングに響く。


「な、なにやってんだ?」

「ぱ……パパが飲めって……」

「「いや、言ってないからっ!」」


 と、嫁と二人で叫んでみたが、ふと、思い返す。


「いや。違うっ! 言ったっ! 言ったな俺っ! ごめんよっ、でも、そういう意味じゃないっ!」


 二歳だろうが、八歳になろうが。

 勘違いは変わらない。


 ……誰の血だろうか。


 そんなことを苦笑いに乗せつつ。


 今日も我が家は平和だ。

 そんな家族の、思い出話黒歴史


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◼️補足

元旦生まれ:1月1日  嫁

雛祭り:3月3日  パパ上

ポッキーの日:11日11日  息子

こどもの日の一時間後:5月6日  娘


娘よ……。


そんな何でもない1日を過ごす我が家の家族にほっこりして頂けたなら幸いです。



ではでは。

にんにん、からの~


どろんっ


分(-(-_(-_(-人-)_-)_-)-)身

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