そうして、私は席を立ち、会計へ

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はじめに。


このお話は、以前書いた百文字作品に、調子のって追加で書いた作品、『そんないつもの一風景』を、そのままコピーしてきたものです。

読まれたことのある方もいらっしゃるかと思いますが、日記として本作品に一纏めにしております。ご了承ください。

なお、この前書きの内容を除くと、2話構成で100文字プラス3000文字の3100文字ぴったりだったりします。

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「10個目、見つかりましたか?」


ファミレスの会計で店員に声をかけられた。


わかってる。

あの席にあった間違い探しだろ?


もちろん見つけたさ。


「間違いだと思う、自分の心が間違いだったんです」


うん。また来よう。











 冒頭の話に至るまで、私には色々なことがあった。





 私が例のアレと運命的な出会いをしたのは、長時間ドライブに疲れて休憩しようと立ち寄った、もう二度と入る機会はないだろう地方でだった。


「疲れた……」

「お疲れ様」


 ぐでっと、家族四人で座った席に突っ伏した私は、妻の労いに、これから数時間の下道運転をするのにお疲れ様と言われても……と思いながらむすっとしていた。


 子供二人は、このファミレスが大好きで、きっずプレートをどれにするか、はしゃぎながら喧嘩をしている。


 店内には近所の主婦以外いない。

 ピークの時間が過ぎていることもあり、店内は静かなもんだ。


 数時間すればまた賑わうのだろうが、今はこの静かなファミレスにほっとする。


 ……ん? 静かか? 意外と主婦の話がうるさいし、子供達の声もうるさい。

 とはいえ、混んでいるファミレスに入るよりかはかなり静かなのは間違いない。


「ねぇねぇ! これなにー?」


 下の子供が机の上に乗っていた案内ボードを一つ。私に見せてくる。


 それは、左右非対称な絵が書かれた、いわゆる『間違い探し』だった。


 「10個の間違いがあるよ!」と、子供のような大人のような、ラフな感じの絵が左右に書かれている。

 きっずメニューの裏に書かれたそれは、子供がいなければ到底見つけられないだろう。


 ほう。食事が出来上がる前の時間潰しか。

 ちょうどいい。

 カーナビ代わりのスマホの電池も切れそうだ。

 こういう時間潰しはもってこいだ。


 そして、家族みんなで、机の真ん中に広げ

た間違い探しの間違いを、血眼になって探し出す。


「えー? どこにあるのか分からないよ」


 

 ふ……見つけたぞ。


 右上のコーヒーメーカーに置かれたコップに取っ手がない。


 流石にこれは簡単すぎるだろうと思える、羊――ん? これ羊か? まあいい。真ん中右側に羊がごっそりといない。

 ……まて。羊で隠れていたおばさんの足もないぞ!? いや、これは間違いではないだろう。だがこのおばさん、どうやって立っているんだ??


 真ん中から下で料理を食べようとしてはしゃいでいる家族の、女の子のリボンの色。


 テーブルに置かれた唐辛子の量が違うし、左下の旗がギザギザではない。

 その上で万歳している男の子がなぜか水中メガネをかけている。ここに水中メガネは必要か?

 ワインのコルクの色も違う。


 一瞬だ。

 一瞬で私は10個のうち7個を見つけてしまった。



 ここに至るまでの激戦は私達家族を興奮させる。

 一つ見つけたら皆が「なるほど!」と騒ぐほどだが、私は違う。


 ふ……所詮は子供だましか。


 とか思いながら私は、「後は皆で見つけなさい」と声をかけて余裕を見せながら残りをちらちらと探す。


 ……ん? おかしい。見つからない。

 家族の皆もどうやら見つけられないようだ。


「……ねぇ、これって間違いかな?」


 妻が私にそう言いながらメニューを指差す。

 KidsMenuと書かれた間違い探しの案内プレートであるその「i」の頂点の点の形が、四角と丸で違っていた。


 な……それは……間違いとしてカウントしていいのか? 誤植じゃないのか?


 どうやら誤植ではないらしい。

 残り2つ。


 そこからは熾烈を極めた。


 どこだ。どこにある。

 子供達も分からないと匙を投げながらも、じっくりとメニューを見つめ続ける。


 時には、


「床の模様が違う」

「いや、これは模様じゃない。ただ単にお前が零したチーズがついているだけだ」


 とか、


「床の模様が違う」

「だから、これは模様じゃない。ただ単にお前が零したチーズがついているだけだ。つ~かさっきそれ言った」

「あれぇ? おかしいなぁ……」

「あ、ねぇねぇ! 見て! 床の模様が違うよっ!」

「……おい、お前、話聞いてたか?」


 とか。

 子供が集中しすぎて零したジュースを拭いたりして妻が戦線離脱したりしながらも残り2個の間違いを探し続ける。


 ん? ジュース?


 ……はっ!?

 まさか、左上のジュースのコップの位置が微妙に違う!?


 こんなの子供が分かるわけがない。


 サイゼリヤよ。

 お前は誰に向かってこの間違い探しを作っているのか。


 そう思うほどに凶悪だった。



 さあ、後一つだ。


 ん? 真ん中のステーキにスパイスをふりかけている辺りが妙に違和感がある……なんだ? でもどこにも違いがなさそうにも見える……。それにそこはさっきジュースが微妙にずれていることで当てたからそこにはないだろう……。


 刻一刻と、時間は過ぎていく。


 これから自宅へと帰らなければならないのに、10個目は見つからず。

 悪戯に時間は過ぎていった。











 そうして、私は席を立ち、会計へと。


「10個目、見つかりましたか?」


 会計で、店員に声をかけられた。

 その言葉に、財布の中の小銭を見ていた私は顔をあげる。

 店員は、子供達がきっずプレートのおまけのコインでガチャガチャを回す光景を可愛いものを見るようににこにこと笑顔を浮かべていた。


 何を言われたのかはわかっている。

 あの席にあった間違い探しだろ?

 もちろん見つけたさ。


「間違いだと思う、自分の心が間違いそう思わないと無理だったんです」



 そのにこにこが、10個目を見つけられなかった私達家族を嘲笑っているかのように見えた。

 10個の間違いがある、という10個の間違いと言っていること自体が間違いなんではないだろうかと思わずにはいられない。


 いやいや、そんなわけない。

 ただ単に、我が家の天使を微笑ましく見ていただけだ。


 だが、あの間違い探しは、この店員が作ったわけではないだろうが、会社の自信作なんだろう。




「ありがとうございましたー」



 悪い意味ではなく、単純にこの道を通ることはないと思うので、もう二度と訪れることはないであろうファミレスから出て、車に乗り込む。




 さあ。

 これから眠気と戦いながら運転だ。


 というか……


 私はなぜ。

 休憩に入ったファミレスで、頭を酷使したのだろうか。



 眠くてしょうがない。






・・

・・・

・・・・






 そして私は、今日も家族とサイゼリヤ戦場へと赴く。


 まさか、我が家の近くの巨大テナントビルの中にあのファミレスができるとは。

 これは、私にまたチャレンジしろと神が言っているようではないか。

 子供達も以前の屈辱を覚えているのか、私達はとの雪辱を晴らすため、注文はほとんど適当に。


 机の上にそっと置かれている例のアレを見る。


 な……なんだ、と……ある一定の時期に、問題が変わる、だと!?


 家族皆が目の前で変わり果てたその作品に、やる気が満ち溢れる。


 今日こそは。

 このやる気があれば、今日こそは10個目も見つけられるだろう。


 私は仕事でも出したことのないほどの集中力で探し始めた。





 ……結果は、内緒だ。



 あえて言うなら、真ん中上にいる猫に二つの間違いがあるのに気づいたときは狂喜乱舞した。

 普通、一つのものに対しては一つの間違いだろう……。












 食事も終わり、ドリンクを汲みに席を立った。


 そんなにドリンクスポットは遠い場所ではないが、たまたま喫煙しながら食事――要は喫煙ルームだが――が出来る部屋を通り過ぎて向かっていた。

 恐らくは、お腹も満腹で、タバコが吸いたくなったからであろう。




 ふと、喫煙ルームに、誰も座っていない席があり、その机にあるパンフレットくらいの小さな案内ボードが目に入る。

 そのボードは私の目を釘付けにし、思わず二度見するほどに、驚きを与えた。







 ……え?





 喫煙席専用の間違い探し……だとっ!?







 そんなの、吸う人にしかできないじゃないか。

 サイゼリヤめ……どこまで私の心を玩びやがるんだっ






 そんな、私と、たまたま入ったファミレスサイゼリヤにあった間違い探しの、いつもの一風景一方的な戦いの、お話。

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