パパ上様日記
ともはっと
はじまりのパパ上
夏休みの宿題
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はじめに。
このお話、こっそりカクヨム2020夏物語に参加していた作品『そんな夏の一風景』を、コピーしてきたものです。
読まれたことのある方もいらっしゃるかと思いますが、日記として本作品に一纏めにしております。ご了承ください。
※実はちょっとだけ追加してたりしてます。
息子が【パパ上様】に聞いた、パパからしたらしょうもない話を語ってあげるお話です。
全てはここから始まっておりますので、最初に持ってきました。
なお、このお話には一部実話が入っております。
どこが実話かは、内緒です。
聞きたかったら幾らでもお答えしますけどね……( ̄▽ ̄)
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ある夏休み。
「ねぇねぇ、パパうえー」
まだまだ小さいが、ちっちゃな頃からパパのことは『パパ上様』と呼べと言い聞かせた結果、大人になったら黒歴史化しかねない呼び方をする小学四年生の長男をみた。
男旅と称して、パパ上様の趣味である神社巡りの旅に連れ回された、チェーン店のコーヒーショップで一休み中である。
そんなことを思う私も私で、結構疲れている。
なんせ、『アキハバーラ』からスタートし、
……今にして思えば、凄い歩いてるな。
え? 神社回ってないじゃん?
いやいや、歩いて迷子になってる間に見つけたちっちゃな神社やおっきな神社、お寺等は、一通り見てお参りしてるから神社巡ってるし、お寺巡りも追加になってるほどさ。
こんなお店に入るのも長男は初めての経験で、歩き疲れてほっとしている感じもあるが、色んなところを歩き回って、買い食いしながら色んな神社を歩き回るというのも、息子の夏休みのいい思い出になったのではないかと私は思っている。
決して普段できない父親としての責務を果たせて満足したとか。
長男がおっきくなったなぁとか思ってじ~んとしているわけではないことは確かだ。
「パパうえって――」
「外では恥ずかしいからパパと呼びなさい」
息子は言い慣れた呼び名の訂正に「恥ずかしいってなに」とぶーぶー言いながら、エアコンが良く効いた店内でアイスカフェオレをずびっと飲むと、私に改めて質問してきた。
「ママと結婚決めたのっていつなの」
「んあ?」
そんなの聞いてどうするのかと思ったが、どうやら夏休みの宿題に、パパとママの馴れ初めについて――正しくは親に共通の思い出を聞いてくる宿題だったことは後で知ったが――質問して、発表するという宿題があるそうだ。
「結婚っていうかなぁ……」
そういえば、母さんを意識したのって、こんな暑い夏の日だったなぁと、何年も前のことを思い出して懐かしくなった。
「まあ、つまらん話だぞ?――」
だからだろうか、ついつい。
息子しかいないから話してみようと思ったのは。
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「あ~……あっちぃ……」
昨日は散々だったと、俺は自身の通う専門学校近くの公園のベンチに座っている。照りつける太陽を見ながら、言ったところでなにも変わらない定番の一言を呟いた。
昨日は、近くの商店街で祭りがあった。
電車で数十分向かえば都内にでるので、そんな祭りより都内で遊んだほうがいいとは思うのだが、昨日はその商店街の祭りでやらなければならないことがあったのだ。
「あいつら……上手くいったからよかったけどなぁ~」
周りにはよくキューピットと呼ばれる俺だ。夏なのだから、そんな俺の力を欲する輩も多くなるのは必然で。
その力を追い求める輩の中に、よく遊ぶ友人がいた。
ついに同級生に自分の想いを伝えるというのなら、キューピーちゃんな俺としては手伝うしかないだろう。
その手伝う先が、近くの商店街でのちっちゃな祭り。
町おこしの一環なのか地元が力を入れているので、珍しく騒がしい祭りだ。
「俺も恋人欲しいっての……」
そんな祭りで、友人は見事に彼女持ちとなったわけで。
それ見たら。俺にも、彼女欲しいという欲望だってでてくるわけさ。
「いいとこ見せたいとか思っちゃうよなぁ」
俺自身には俺が持つキューピーちゃんな恩恵はないものの、やっぱり祭りという特殊な場に、ちょっとは期待しちゃうわけ。
なのに。
商店街のその祭りで、友人とその標的をくっつける為に女友達に協力してもらうという、ちゃっかりダブルデートを満喫しようと考えた罰でもあたったんだろう。
普通に祭りを楽しんでいた俺は、友人のことなんて忘れちゃって。
友人の標的に、いいとこ見せようとした友人とはしゃぎ――
「――そんなこと思って、恋のキューピットは高く飛び上がってエアーダンクスマッシュを決めて、着地と同時に足の中指折りましたっと」
商店街の祭りにダブルデートで付き合ってくれた女友達に、わざわざ買ってきてもらったジュースを嫌味のような解説と共に頂く。
「勘弁してくれ……」
「見ていて面白かったけどね」
そういう女友達は、思い出して心底おかしいと笑いだす。
それを見て、俺は間もなく始まる次の授業のために重い腰を上げようとするが――
「――まあ、ちょいとあれだよ。動きにくいから支えてくれよ」
もちろん、こんな指の骨を折っただけでがっちがちに固められた足に慣れていないので、思うように立ち上がれるわけもない。
こんな、折り方も含めて足を折るというのも初体験。手を貸してもらわないと思うように行かないので、よく傍にいてくれる女友達に声をかける。
「……は?」
なぜか助けを求めたら、凄い顔して自分のジュースを落として慌てる女友達にこっちが驚いたあの暑い夏の日。
それから数週間後。
なぜか、俺に念願の恋人が出来ちゃったわけだけど。
それが。
聞き間違えからの脳内変換が走って、
「一生、俺を支えてくれよ」
と、聞こえていたようで。
告白されたのだと思って意識されたってのは後で知ったのだがね。
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「とまあ。そんな感じで。気づいたら結婚してたな」
「ふ~ん」
……おい。かなり興味なさげだな。
当たり前か。
息子はまだ小学四年生だ。
そんな話されても、「専門学校ってなに?」とかからわからないだろう。
「その骨折さ」
「ん?」
「テニスのプレーで、『だんくすまっしゅ』って技があって、それを真似した時のはなし?」
「な――なにを……」
「お母さんから聞いたけど? 人気漫画のキャラクターが使ってるの見て、ジャンプするだけなら誰でも出来そうな技って聞いた」
――そう。
先程の話には、話していないこととほんの少しの脚色があった。
それは――
「お母さんからは骨折した時は二人だったって聞いてるよ?」
ダブルデート中、「後は若いもん同士任せて」といってこっそり二人して抜け出して、ダブルデートがただのシングルデートになっただけで。
その時の事件なだけで。
「うぇ~いとか言いながらジャンプして、だんくすまっしゅ!って叫んで着地したらひょこひょこ歩き出したって聞いてるよ?」
彼女にいいとこ見せようとして、たまたま二人で共通の漫画の話になって、盛り上がって彼女の前で出来そうな技をやってみようという話になり、ジャンプ力に自信のあった俺は、ダンクスマッシュなるものを打ち放っただけだ。
その結果、
祭りで騒がしいその中で。
それは少しずつ違和感から痛みに変わり。
笑顔が冷や汗混じりの笑顔に変わり。
ひょこひょこしだして歩けなくなって、二人で病院に向かったら「折れてますね」といわれて松葉杖生活を余儀なくされたってだけの話だ。
ちなみに、今もその指はリハビリにちゃんといかなかったので、骨折部分を触ると、よく分からない変な突起ができてたりする。
「お母さん、その話何度もするから僕も妹も覚えてるんだよね」
「なんで……」
「だって。パパは若い頃はお金なくて遊びに行けなくて。数えるほどしかない遊びに誘ってくれた時に起きた、大笑いした出来事の一つだからって」
「……」
「くろれきし、って言うんだっけ?」
来年――2020年の子供の夏休みに、もし同じ宿題が出されたら。
今度はこいつらの黒歴史を思う存分語ってやろうと思いつつ。
「お父さん、もう若くないからだんくすまっしゅなんかしないでね」
「ほっとけ」
他愛ない会話をしながら、長女と嫁の待つ我が家へと電車に揺られて帰る。
そんな、いつもの家族の、一風景――
夏休みが終わり。
二人とも、夏休みの宿題でしっかりと。
『だんくすまっしゅ』と言うテニスの技を題名として、足の中指を骨折した父親の話を、母親と父親視点で聞いた内容を発表していたと聞いたときは、
「勘弁してくれ……」
と呟いてしまった。
そんな。
何気ない普通の家族のとある夏のお話。
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