鬼の終わり
鬼夜叉を殺し終えたヒジリは、セイヤたちと合流した。
「終わりました……」
「ああ、お疲れ「ちょ、馬鹿見るな!!」うわっ!?」
だが、出迎えた瞬間、ヴェンに羽交い絞めされた。
そして、クレッセンドが荷物から毛布を出し、ヒジリの身体をそっと隠す……そう、ヒビキの攻撃を受けたヒジリの服は裂け、ほとんど裸だったのだ。
セイヤもヒジリも気にしていなかったが、ヴェンたちはそうではなかったようだ。
セイヤをアナスタシアに押し付けたヴェンは、ヒジリの前へ。
「ヒジリ、着替え着替え!! あ、荷物あたしが持ってるんだった……待ってて」
「ありがとう、ヴェン。ところで、死体ですが……」
「あ、もらっておくね。でも、百人までしか『不死者』にできないんだよね……傭兵のみんなでけっこうストック使ってるから、強そうなのだけもらっておく」
「はい。残りは野生の魔獣の餌にでもしましょう……それと、両親と弟は『不死者』にせず、魔獣の餌にしてください」
「……わかった」
なるべく普通に接するヴェン。
ヒジリはたった今、両親と弟を殺したのだ。
クレッセンドは、ヒジリに聞く。
「ねぇ……聖職者として、死者に祈りを捧げてもいい?」
「お好きにどうぞ」
「……復讐は何も生まないって言うけど、あんたはどう?」
「そんなことはありません。すごくスッキリしました」
「…………そっか」
クレッセンドは、静かに祈り始めた。
セイヤを背後から抱きしめていたアナスタシアは、ヒジリを見る。
「悲しい方ですね……」
「さぁな。でも……ヒジリがスッキリしたて言うなならそれでいい。俺は何も言わないし、これからもヒジリと一緒にいるさ」
「……優しいのですね。少しばかり妬けちゃいます」
「は?」
「いえ! 旦那様、妻は私ですからね!」
「……?」
アナスタシアは、セイヤを強く抱きしめた。
◇◇◇◇◇◇
ヴェンが死体を回収し、残りは魔獣のエサにしてセイヤたちは里を出た。
そして、夜になる前に野営をするべく、小川のある大きな岩影にテントを張る。
ヒジリは、五百人以上を殺した後とは思えないほど普通だった。
夕飯を済ませ、疲れからかアナスタシアとクレッセンドは寝てしまい、ヴェンも周囲を作ったばかりの『不死者』で警備をさせ眠りについた。
残ったのはセイヤとヒジリ。
ヒジリは焚火の近くで、警備をしている鬼の『不死者』を眺めている。
「……寝ないのか?」
「主……いえ、少し寝付けなくて」
セイヤは、カップに薬草を入れてお湯を注ぎ、ヒジリに渡す。
ヒジリはそれを受け取り、かぐわしい薬草の香りを嗅いだ。
「いい匂いです」
「リラックス効果のある薬草だ。それを飲んだら寝ろよ」
「…………はい」
しばし、二人は薬草茶を飲む……すると、ヒジリが呟いた。
「主。私は……正しいことをしたのでしょうか?」
「さぁな」
即答だった。
セイヤは、焚火を見つめながら言う。
「そんなの、俺には判断できない。お前は鬼夜叉と家族に裏切られて復讐したいって願った。そしてそれを成し遂げた……正しいとか正しくないとか、それはお前が決めることだ。ヒジリ、お前はどう思う?」
「…………スッキリしました」
「ならいいじゃん。それが答えで、お前は復讐してスッキリした……で、次はどうする?」
「……え?」
「次だよ。お前の人生はまだまだ続くんだ。次にやりたいこと何かないのか?」
「……主と、一緒にいることです」
「じゃあ、ずっと一緒だな。あ、鉱山買って炭鉱夫になるって夢があるから、俺はそれを目指すぞ。それでもいいなら一緒に来いよ」
「主……」
ヒジリはくすっと笑い、セイヤの肩に頭を寄せた。
「主。ありがとうございます」
「ん? ああ、そうか」
「では、炭鉱夫になるために、勉強とお金を稼がないと。ヴェンからいろいろ聞くのもいいですし、バニッシュさんたちから炭鉱夫のことを聞くのもいいですね。それと、主が望む鉱山も探しておかないと」
「お、おう……はは、やることいっぱいだな」
「でも、楽しいです」
「ああ。それと……アナスタシアたちのことも、なんとかしないとな」
やることは山ほどある。
ヒジリは復讐を終え、新たな目標に向かって歩き出した。
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