家族
ドチャッ……と、水っぽい何かが落ちる音がした。
「これで約五百……ああ、一つ聞かせてください。里の外にいる鬼夜叉は何人ですか?……まぁ、今はいいか」
音の正体は、ヒジリが手に持っていた血の滴る肉の塊が地面に落ちた音だ。
おかしな表現だが、骨が飛び出した身体は無傷。
一人で五百人を相手にしたヒジリも無傷では済まなかった……が、『
これには、余裕たっぷりだったヒビキと両親も顔を青くした。
「な、な……なんだテメェ!! そ、その身体……け、怪我が」
「私は不死身です……生えている四肢を見て何も思わなかったのですか?」
「馬鹿言うんじゃねぇ!! 鬼夜叉の身体があるからって、手や足を生やすには何年もかかるはず……どういうことだ!!」
もちろん、聖女になったなどと言うつもりはない。
コウゲツもミカゲツも、ヒジリを恐怖の対象としてとらえていた。
コウゲツは、ヒジリに言う。
「ひ、ヒジリ……貴様、鬼夜叉を」
「滅ぼします。というか、私を殺そうとしたくせに、死ぬのが怖いのですか?」
「そうではない!! 鬼夜叉はアレクサンドロス聖女王国とバルバトス帝国を影から支えてきた戦闘種族だ。鬼夜叉がいたからバルバトス帝国はアレクサンドロス聖女王国と対等な立場でいられたのだ!! それを」
「うるさいですね……そんなの、私には関係ありません。それに……」
アナスタシア。
彼女がいれば、戦争になどならないだろう。
ヒジリはそれを知っている。というか、仮に戦争になっても気にしなかった。
そして、ミカゲツが。
「ヒジリ……戻っておいで」
「……?」
「私とコウゲツ、弟のヒビキの四人で、また鬼夜叉一族を作りましょう。今度はあなたにも『役目』を与えます。また家族で」
「……はぁ」
あまりにも、くだらない。
ヒジリは見た。母の顔から見て取れたのは恐怖。
ミカゲツは、ヒジリに怯えていたのだ。
「ヒビキ、どうしますか? 大人しく死ぬか、私に抗って死ぬか……血のつながった弟に、最後の慈悲を与えましょう」
「舐めんじゃねぇぞ!!」
ヒビキが『鬼ノ爪』を発動させ、ヒジリに飛び掛かってきた。
ヒジリは微動だにしない。
餓者髑髏も解除し、生身のままヒビキの爪で引き裂かれた。
「ヒャァァーーーッハハァッ!!」
ヒビキは、ヒジリの身体を何度も受ける。
引き裂かれるたびに血が噴き出し、内臓も零れ落ちた。
だが、ヒジリの表情は変わらない。ヒビキが疲れるまで攻撃を受け続け───ついに、ヒビキの爪が止まり、ヒジリが倒れた。
「ハァハァハァ、ハァハァハァ……はは、はっはっはぁ!! どうよ!? テメェみてぇなクソ鬼、オレが、オレのが強ぇんだっつーのぉぉぉっ!! ぎゃぁぁーっはっははぁ!!」
「まぁ、他の鬼よりは強いですね」
「え」
むくりと、ヒジリが起き上がった。
何度も引き裂かれたことで服は破れ、上半身はほぼ裸だ。
だが、羞恥心はない。傷一つない裸身を晒し、ヒビキを、父と母を見る。
「最後に教えてあげます。私がなぜ死なないのか……それは、私が『聖女』に任命されたからです。聖女の魔法が、私を祝福してくれた。あなた方とは違い、私を必要としてくれる人がいる。もう、あなたたちは必要ありません。私が抱く感情は、あなたたちを殺したいと思う憎悪だけ……では」
ヒジリが『別れ』の言葉を継げると、ヒジリの身体が変わっていく。
骨格が変わり、全身の血管が浮き上がり、筋肉が膨張……髪が伸び、額からツノが二本生えた。
餓者髑髏とは違う、もう一つの姿。
真なる鬼。それが『|鬼鳴・
「終わりにしましょう……ヒビキ」
「ふ、ふ……ふっざけんじゃねぇぇぇーーーーーーッ!!」
ヒビキが『鬼鳴』を使う。
全身の血管、神経が浮かび上がり、額にツノが生えた。
だが……並みの鬼夜叉にとって『鬼鳴』は命を燃やす技。
ヒビキがヒジリに飛びかかるが、ヒジリはヒビキの顔面を鷲掴みした。
「ぐ、がぁ……っ!?」
「ヒジリィィィィィィッ!!」
そして、コウゲツが『鬼鳴』を使いヒジリの背後から襲いかかる───が。
「───ぐぬっ!?」
どこからか『矢』が飛んできて、コウゲツの腕に突き刺さった。
「なっ……これは」
「さすが主です」
「ゲブゥッ!?」
一瞬の隙を突かれたコウゲツの胸に、ヒジリの『鬼ノ手』が突き刺さる。
ヒジリの手がコウゲツを貫通し、その手にはコウゲツの心臓が握られていた。
「ぐ、ぶ……」
「さようなら」
冷たい声で別れを告げ、コウゲツは事切れた。
そして、ヒビキの顔面を鷲掴みにしたまま、逃げることもできず立ち尽くすミカゲツの元へ。
「ま、待ちなさいヒジリ……あなたは、実の親を殺すと」
「はい。実の親に殺されかけましたから。ああ、主が言っていました……『やられたら倍にしてやり返せ』と。つまり、あなたを殺さないと」
「あ、あ……」
「では」
ヒジリの爪がミカゲツを引き裂いた。
身体がバラバラに引き裂かれ、ミカゲツは血を吐いて動かなくなる。
そして……ヒジリは最後に、ヒビキの顔から手を離し、首を掴んだ。
「ぐ、がぁ……」
「ヒビキ。あなたは鬼夜叉として強くなるために、同胞を何人も喰らったようですね……では、私もそうさせてもらいます。ふふ、あなたの最後が『喰われて』終わるなんて……なかなかに面白い」
「ひ、ジリぃぃぃぃぃぃっ!!」
ぐちゃ、ばきゅ、ぼりゅ……水っぽい音が響き渡る。
ビクンビクンと何度も痙攣し、ヒビキは首から下だけになった。
ヒジリは、残った身体を投げすてる。
「マズいです……ヴェンの作ったご飯が食べたくなりました」
こうして、鬼夜叉たちは滅びを迎えた。
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