復讐鬼
鬼夜叉の里入口に、数人の『
特に何かをしているわけじゃない。暇なので集まり、酒を飲んだり煙草を吸ったりしているだけだ。
彼らは、仕事がないときは、どこにでもいる普通の人にしか見えなかった。
そんな鬼夜叉たちの前に、一人の少女がやってきた。
「あん?……おい、なんだお前…………え!?」
すぐに気が付いた。
漆黒の髪、真紅の瞳をした少女は間違いなく同族だ。
だが、それはあり得ない。
鬼夜叉の一人が、震えた声で言う。
「お、おま……ヒジリ、じゃねぇか……な、なんで」
ヒジリは、鬼夜叉たちの顔を見ながら言う。
「アマツさん、ヒヒイロさん、シュウギクさん、ミオさん……お久しぶりです」
ヒジリは、全員の名前を憶えていた。
ミオと呼ばれた女性が、平静を装いつつ言う。
「よ、よくここがわかったねぇ?……あ、ああそうだ。ヒビキ頭領のところに伝えてこないと」
「いえ、自分で行くので大丈夫です。それに……あなたたちに行かせる必要もありません」
「ど、どういう……?」
「決まっているじゃないですか……」
ビキビキと、ヒジリの両手から骨と血の刃が飛び出す。
目が真っ赤になり、牙が生え、角が伸びた。
「あなたたちは……ここで死ぬんですよ。私に狩られてね」
そう言われ、アマツが吠える。
「ふ、ふっざけんじゃねぇ!! 捨てられた腹いせかぁ!? つーか、たった一人で何ができる!!」
「殺せます」
「……あ?」
「あなたたちを全員殺せます。私は、それだけ強い」
「イキってんじゃねぇぞヒジリ!! おいお前ら、ぶっ殺すぜ!!」
アマツがそう言うと、他の三人も覚悟を決めたようだ。
爪が伸び、目が真っ赤になり、血管や神経が浮かび上がる。
「このガキが!! なんで生きてるか知らねぇが、ぶっ殺してやらぁ!!」
「───」
ヒジリは、牙を見せつけるように嗤った。
◇◇◇◇◇◇
すこし離れた場所にある大きな樹の上に、セイヤたちはいた。
太い枝と枝に板をかけ、床のようにしている。ここに、セイヤとヴェン、アナスタシアとクレッセンドの四人がいる。
セイヤは『鷹の眼』でヒジリの様子を見ていたが、舌打ちをする。
「ちっ……ヒジリのやつ、本気で真正面から皆殺しにするつもりだ」
いちおう、作戦会議はした。
隠れながら一人ずつ数を減らすとか、殺した鬼夜叉をヴェンの魔法で不死者にし攪乱させるとか……できる限りの策を考えたつもりだったが、ヒジリは全て無視して真正面から身を晒している。
クレッセンドもため息を吐く。
「はぁ……鬼夜叉のアジトに真正面から乗り込むなんて、普通はやんないよ」
「……妹、見えるのか?」
「うん。あたし、『眼』はいいからね」
「わ、私だって見えます!! ま、魔法を使えば……」
「馬鹿姉。張り合わなくていいっての」
張り合うアナスタシアをクレッセンドは軽く小突いた。
すると、ヴェンがセイヤに言う。
「セイヤ……やっぱり、ヒジリのサポートをするべきじゃ」
「でも、ヒジリがそれを望んでいない。これはヒジリの戦いだし、できるだけ手を出したくない……って言ったらどうだ?」
「……本当にヒジリは勝てるの?」
「たぶん。あいつがそう言ってたし、信じるしかない」
「……じゃあ、こっそりとやる」
ヴェンの影から褐色肌の少女が現れる。
ジョカ。ヒジリにあっさり殺された鬼夜叉を『不死者』にしたヴェンの戦力の一つだ。
「ジョカ、ヒジリのサポートを」
意思のないジョカはただ頷き、樹を下りて村に向かった。
そして、セイヤも首をコキコキ鳴らす。
「……そうだな。殺さなきゃいい。おい、仕事を頼む」
「はい!! 私、何をすればよろしいでしょうか?」
「お前の魔法、なんでもできるんだよな?」
「はい。私が望んたことなら実現可能です。私が望めば物理法則だって捻じ曲げられます」
セイヤと何やら話し始めたアナスタシア。
ヴェンは苦々しい顔でクレッセンドに聞く。
「物理法則を捻じ曲げって、さらっととんでもないこと言うわね……ねぇクレッセンド、この人やばいの?」
「んー……もし戦うことになれば、今存在する全ての聖女に招集かけないとヤバいレベル。お姉ちゃんが『消えちゃえ』って思うだけで相手殺せちゃうからね」
「うわ……こわっ」
「でも、この通り平和主義者でアホだからねー……今じゃ恋する乙女だし、セイヤの言うことならなんでも聞いちゃいそう」
「ある意味、とんでもない兵器よね」
「うんうん。ヴェンもわかってきたじゃん」
いつの間にか、ヴェンとクレッセンドは仲良くなっていた。
セイヤとアナスタシアの作戦会議も終わり、セイヤが言う。
「よし、ヒジリの復讐を邪魔しないレベルで援護する」
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