パーティー結成

 セイヤとヒジリは(半ば強引に)アナスタシアたちと同じ宿を取った(取らされた)。

 最上階の一階下に部屋を取ると、アナスタシアとクレッセンドがなぜか押しかけてきた。

 ソファに座って武器の手入れをしているセイヤは、嫌そうな態度を隠さず言う。


「邪魔。失せろ」

「身の回りのお世話をさせてください。妻として当然の役目です」

「妻じゃないし。おい妹、姉連れて消えろ」

「それができたらやってるっつーの!! この馬鹿姉、魔法使ってまで行こうとするんだもん!! あたしじゃ止められないし!!」

「魔法……?」


 アナスタシアの魔法に、セイヤは興味が少し湧く。

 すると、アナスタシアは嬉しそうにセイヤの隣へ。

 セイヤは果物をもぐもぐ食べているヒジリに視線を投げるが、食べるのに夢中なのか気付いていない。


「私の魔法は『世界ザワールド』です。世界の『ことわり』を自在に操る魔法で、私が望んだことを実現することができます。ただし、大掛かりな力を使うと肉体に多大な負担がかかりますので……せいぜい、この都市程度の『理』を操るのが精いっぱいですね」

「いや、十分すごいし……ったく、魔法の秘密をペラペラと、この姉は」

「いいの。私の夫に隠し事はしないわ」

「夫じゃない。離れろ。胸を押し付けるな」


 アナスタシアはセイヤの腕を取り、柔らかな胸を押し付ける。

 そして、熱い眼差しでセイヤを見つめた。


「あの、セイヤさん……お願いが」

「んだよ」

「『旦那様』とお呼びしても……?」

「却下」


 セイヤは、アナスタシアを適当にあしらうことにした。

 アナスタシアを無視し、コンパウンドボウを分解清掃する。

 クレッセンドは頭を抱え、果物を食べているヒジリに聞いた。


「ねぇ、あなた……いいの?」

「もぐぐ……んぐ、なにがです?」

「いや、この馬鹿姉とあなたの主のこと……」

「問題ありません。本当に邪魔なら……主が『処分しろ』と命じればいいだけ」


 ヒジリは、見せつけるように『鬼ノ爪』をズリュリと出す。

 水っぽい音がしたのは、ヒジリの皮膚を突き破って『骨の刃』が飛び出したからだが、クレッセンドは特に表情を変えなかった。


「……よし、と」


 武器のメンテナンスを終え、セイヤも果物に手を伸ばす。

 リンゴを手に取ったが、アナスタシアに取られてしまった。


「おい、なにすんだ」

「いえ、食べやすいようにしようと」


 アナスタシアは机の上にあった皿を手に取り、リンゴを軽く指でなぞる。

 すると、なぞられたリンゴか綺麗にカットされた。しかも皮も剥いてある。


「どうぞ、旦那様」

「旦那じゃねーし。まぁ……感謝する」

「はい!」

「うわ、嬉しそう……もう駄目だ、この姉」


 クレッセンドは諦め、ヒジリの隣に座った。

 セイヤはリンゴを齧り、聖女姉妹を気にせず言う。


「ヒジリ、お前の故郷だけど、いつ出発する?」

「明日。それと、出発の際はヴェンも連れて行って欲しいそうです。オーガの死体を『不死者』にすれば、労働力としても戦力としても申し分ないですからね」

「わかった。じゃあ明日だな。出発の際に声かけるか」

「はい」

「ちょ、ちょっと……故郷って?」


 クレッセンドの質問に、セイヤはサラリと答える。


「ああ、ヒジリの故郷……『鬼夜叉オーガ』を皆殺しにしに行くんだ」


 ◇◇◇◇◇◇


 セイヤの腕にじゃれつくアナスタシアはともかく、クレッセンドは大いに驚いた。


「お、おお、オーガを皆殺しって……う、うっそ?」

「本気だ。事情は省くが、ヒジリは鬼夜叉でありながら鬼夜叉に恨みがある」

「で、でも……聖女ですら敵わないかもって言われてる最強の戦闘種族に挑むなんて」

「問題ありません。私の力なら皆殺しにできます」

「ちょ、えぇ?……ああもう、頭痛い」

「じゃあ帰れ」

「旦那様。明日出発ですね? お供します」

「ちょ、馬鹿姉!?」

「…………まぁ、いいぞ」

「いいの!? あ、わかった!! あんたお姉ちゃんの魔法、何かに使えるかもって考えたでしょ!!」

「…………ふん」


 図星だったので、顔を背けるだけにした。

 アナスタシアは嬉しそうに言う。


「旦那様……いいえ、あなた、私にできることがあれば何なりと」

「じゃあ、今日は早く寝ろ。明日はウェイクリンデ大森林に行く。動きやすい恰好で集合だ」

「はい♪」

「くぉら!! 勝手に決めんなっての!! ああもう……」


 クレッセンドは頭を抱え、自分も同行することに決めた。


 ◇◇◇◇◇◇


 翌日。

 セイヤとヒジリ、アナスタシアとクレッセンドは、赤蛇傭兵団の倉庫に来た。

 装備を整えて出てきたヴェンは、見慣れない二人に顔をしかめる。


「…………誰?」

「アナスタシアとクレッセンド。聖女だ」

「紹介雑!! えーと……とりあえず、敵じゃないから」

「……ふーん」


 少し不機嫌なヴェン。

 理由は……アナスタシアがセイヤの腕に抱きついているからだろうか。

 セイヤは気にしていないのか、ヴェンに言う。


「行くぞ。ウェイクリンデ大森林のどこかにある『鬼夜叉オーガ』のアジトを探す。ヒジリ、頼んだぞ」

「はい、主」

「ふふ。楽しみね」

「馬鹿姉……まさか、我が姉がこんなにもアホだったなんて」

「……マジでなんなの?」


 セイヤ、ヒジリ、アナスタシア、クレッセンド、ヴェンの五人は、ウェイクリンデ大森林に向けて出発した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る