三司祭
聖女神教・大聖堂。
神殿地下の秘密部屋に集まった三人の大司祭は、部屋に入ってからずっと無言だった。
だが、いつまでも無言ではいられない。
最初に口を開いたのは、アウローラだった。
「……このままではまずい」
そして、蛇のような緑色の髪を持つヘルミーネが言う。
「そうね。まさか……最強の聖女が死亡、雇った『
完全な敗北だった。
これ以上ない、あまりにも無様な結果。
大司祭フェアリーは、ため息を吐く。
「もう、駄目だね……戦って勝てる相手じゃないよ。セイヤの連れてる聖女、一人は『
「……なら、他の
「ん~……あたしの勘だけど、たぶん勝てないっぽいねぇ」
ヘルミーネに向かって曖昧にほほ笑むフェアリー。
ヘルミーネは大きくため息を吐き、アウローラに聞いた。
「ねぇアウローラ。もう私たちにできることは一つしかないわ」
「…………なんだ」
「セイヤはもう、殺せない。なら……敵対するより、味方に付けるしかない」
ヘルミーネの言葉に、アウローラは机を叩くことで返した。
「ヤルダバオト様を諦めろというのか!?」
「そうよ……私だって嫌。でもね、聖女がこの地上から全て消え去るのはもっとダメ……ヤルダバオト様が悲しむに決まってる」
「っく……フェアリー、お前は」
「……あたしも同意見かな。ミカボシが負けた以上、聖女神教の聖女でセイヤを殺せるのはいないよ。あたしら大司祭だって無理……」
「…………」
アウローラは頭を抱える。
セイヤを殺し、ヤルダバオトを再び地上に迎えるという作戦は、完全な失敗だった。
そして……苦渋の決断をした。
「……わかった。セイヤは……もう殺さない。殺せない……使者を送り、友好条約を交わそう」
「それしかないわ……真摯に頼めば、聖女を作る助けも期待できる」
「……そう上手くいくかわかんないけどね~」
アウローラは頭を抱え。
ヘルミーネは疲れ切った表情。
フェアリーはどこかつまらなそうに。
三人の大司祭は、神の子セイヤを諦めることにした。
◇◇◇◇◇◇
とある行商人の馬車に、二人の少女が乗っていた。
「おねぇちゃ~ん……お腹減ったぁ」
「我慢なさい。夕飯までまだ時間があるから」
「ってかさぁ~……魔法使って移動すればいいのに、なぁ~んでお金払って商人の馬車に乗せてもらうワケぇ~?……かったるぅい」
「魔法は私的に使うものではないわ。それに、次の町までもうすぐよ」
「ぶぅ~……」
アナスタシアとクレッセンドだ。
二人はお金を支払い、行商人の馬車に乗せてもらっていた。
行商人と、その護衛である傭兵が十名いる。傭兵の中には女性が四名ほどいたので、二人が襲われるようなことはない。
すると、行商人の男がアナスタシアに言う。
「ささ、お茶でもどうぞ! 窮屈で申し訳ございませんが、もうしばらく我慢していただけると……」
「ありがとうございます。私どものことは気にせず、ゆっくりなさってくださいね」
「とんでもない!! お心遣いありがとうございます」
行商人は、馬車の中で何でも頭を下げた。
それもそのはず。アナスタシアが支払った金額が、この行商人の五年分の稼ぎだったのだ。
もちろん最初は受け取り拒否したが、アナスタシアがどうしてもというので受け取った。たかが次の町まで馬車に乗せるというだけで五年分の稼ぎなのだから美味しい。
「あの、次の町ですけど……」
「ああ! 次はバルバトス帝国で最も大きな商業都市です。流通の中心地であり、未開発の鉱山が多くある町なんですよ。その名も商業都市ベルセリア、ここで買えない物ない!と我々商人は言いますね!」
アナスタシアの質問に、商人は自信たっぷりに答えた。
「鉱山……?」
「ええ。鉱山だけじゃなく、ウェイクリンデ大森林ってデカい森もあるんですわ。どっちも資源の宝庫で、これからが期待されてる大都市です!」
「へぇ~……お姉ちゃん、面白そうだね!」
「遊びじゃないのよ」
「はいはい。まったく、胸はデカくて柔らかいのに、頭は岩みたいに硬いんだから」
「…………クレッセンド?」
「っひ!? じょじょ、冗談だって!! あはははは……」
クレッセンドは、笑ってごまかした。
セイヤとの出会いまで、あと数日……。
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