商業都市ベルセリア
セイヤとヒジリ、そして傭兵団たちは、商業都市ベルセリアに向かっている。
山越えをし、街道を進んでいる時から、商人や冒険者、乗合馬車とよくすれ違うようになったが、その理由も納得できた。
セイヤは、傭兵が引く荷車の荷物の上から言う。
「で、でかい……」
商業都市ベルセリアは、セイヤが見てきた中でも最大の都市だった。
遠目からでも、大きな建物や何本も伸びている街道、その道の上を行きかう馬車が多いことに驚く。
そして、ベルセリアの近くには大きな山脈、さらに大きな森があった。
ラーズが、セイヤに説明してくれる。
「あの山がオレたちの目標の一つ、ベルセリア鉱山地帯。そしてあっちの森がウェイクリンデ大森林だ」
「鉱山……」
「ああ。バルバトス帝国で最も大きな鉱山地帯だ。帝国が管理する山のいくつかが売りに出されていて、オレたち『赤蛇傭兵団』はその一つを買う」
セイヤは荷車から飛び降り、ラーズの隣へ。
「鉱山、買えるのか?」
「ああ。町を救った礼として、シアンの町長が礼金を弾んでくれた。今まで貯めた金とアジトと土地を売り払った金があれば、鉱山を一つ買える」
「…………そっかぁ」
「セイヤ、話がある」
「え?」
ラーズは、セイヤを連れて傭兵団の列から離れた。
その様子をバニッシュが見ていたが、特に何も言わなかった。
「あ、あの」
「セイヤ……お前に妙な力があり、ヴェンを聖女に任命した。ここまではいい」
「は、はい」
「オレを見ろ。いや……オレたちを」
「……」
セイヤはラーズを、バニッシュを、傭兵たちを見た。
赤銅色の肌、瞳が赤く染まり、髪は真っ白になった『
「オレたちはヴェンの魔法で生かされて……いや、心臓は止まっているから『生きて』はいないんだろうな」
「ラーズさん……」
不死者となったラーズたち。
飲食はできるが、しなくても消耗しない。
怪我は瞬時に治り、病気もしない。
身体能力が高く、五人がかりで引いていた荷車を一人で容易く曳く。
「肌と髪と目の色も変わった……オレたちはオレたちだが、もう人間じゃない。もしもの場合もあるから、お前に頼みたいことがある」
「は、はい……」
ラーズは、真剣だった。
セイヤは、ラーズの真紅の眼から反らさずに合わせる。
「セイヤ。オレたちの立ち上げる鉱山採掘会社の、トップになってくれ」
「え……」
「これは団長も、仲間たちも……オレも了解済みだ」
「ちょ、ちょっと待って!! と、トップって……」
「冗談じゃないぞ。本気だ」
セイヤはラーズから距離を取り、深呼吸した。
だが、ラーズはすぐに距離を詰めてくる。
「……オレたちはもう人間じゃない。いざという時に、お前という人間が必要な場合がある。お前が自分の鉱山を持ちたがっているのは知っている。商業都市なら仕事がいくらでもあるから稼ぐことはできるだろう。冒険者として魔獣討伐をメインに仕事をこなせば、お前なら数年で小規模の鉱山を買うことができるだろう。自分の鉱山とオレたちの鉱山を合併して、一つの会社にしてもいい」
「ちょ、ちょっと待って、待った!!」
ラーズの話を強引に遮るセイヤ。
さすがに、これは無視できない。
「いきなりすぎる。バニッシュさんや傭兵たちは本当に?……それに、ヴェンは」
「……ヴェンはまだだ。だが、拒否しないだろう」
「なんでそれがわかるんですか……」
「ヴェンは、お前とヒジリに心を許しているからだ。初めて出会った同世代の友人だからな」
「……よくわかんないな」
「とにかく、オレたちは本気だ。形式上でもいい。オレたちの会社の代表になってくれ。決して迷惑はかけない」
「…………」
「お前が望むなら、鉱山採掘の勉強もさせてやろう」
「え」
さすがのセイヤも、これは無視できなかった。
セイヤの鉱山知識は全て書物だけだ。話を聞くと、傭兵の中には実際に鉱山で働いたことがある人が何人かいるらしい。
「それに、団長は元炭鉱夫だ。知識なら本とは比べ物にならないぞ」
「…………」
以前、バニッシュの誘いを蹴ったセイヤだが……勉強という名目で鉱山で働くのも悪くない。
冒険者家業で金を稼ぎつつ、バニッシュの会社(名目はセイヤが代表)で働きつつ炭鉱夫のイロハを学ぶ……悪くない。
すると、バニッシュが現れラーズと肩を組む。
「まーだナンパは終わんねぇのか?」
「だ、団長!!」
「ったく、セイヤはオレが口説くーなんて言うから任せたけど、言い方が堅っ苦しいんだよ。おいセイヤ、難しいことは抜きで頼む……形式上でいい、オレの鉱山の代表になってくれ」
「…………わかりました。でも、条件が」
「お、なんだ?」
「俺、やることがあります。それが終わったらこの話を受けます。それと、冒険者は廃業しません。冒険者家業でお金を稼ぎたいです」
「いいぜ。代表っつー肩書はあるが普段は自由にしてくれ。仕事を学びたいなら力貸してやるし、
「バニッシュさん……」
バニッシュはニカッと笑い、セイヤの頭を撫でた。
「ま、難しい話は町についてからだ。じゃあ頼むぜ」
「は、はい!!」
「……じゃあ、頼む」
「は、はい……」
「それと、敬語はいらない。そっちのが楽でいい」
そういって、ラーズは傭兵たちの列に戻った。
それを見たバニッシュが苦笑する。
「あいつ、ちゃんとお前のこと認めてるからよ。気を悪くしないでくれや」
「……はい」
「そろそろベルセリアに到着だ。まずはオレらのアジトに行くぜ」
こうしてセイヤたちは、商業都市ベルセリアに到着した。
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