ようこそ不死者、さらば聖女
敵は聖女。
ミカボシを筆頭に、アレクサンドロス聖女王国の戦闘聖女が二十人。そして聖女王国が雇ったジョカ。
対して、セイヤたちの戦力。
セイヤ、ヴェン、『
ミカボシは剣をセイヤたちに突きつけ、命じる。
「死者を土に還せ……やれ」
すると、聖女たちの魔法が放たれた。
爆発、矢、投石、雷、氷に炎……とにかく滅茶苦茶に飛んでくる。
それに対し、ヴェンは言った。
「みんな、お願い……あたしを信じて」
「ヴェン……へ、娘を信じるは親として当然だろうが」
「オレも、お前を信じる……そうだろ、みんな!!」
「「「「「おう!!」」」」」
バニッシュ、ラーズ、傭兵団が、セイヤとヴェンを守るように前に出た。
傭兵たちの身体に魔法が突き刺さる。
ある物は爆散、ある者は氷漬け、ある者は一瞬で燃え上がり、ある者は岩石に圧し潰される。
だが、ヴェンの表情は変わらない。
「みんな。みんなはもう死なない……ごめんね」
ほんの少しだけ、悲し気な声。
すると……砕けた身体、黒焦げの身体、潰れた身体、凍り付いて割れた身体が、一瞬で再生した。
「う、ぉぉ……なんじゃこりゃ」
「い、痛みがない。血も出ない……というか、団長」
「ああ……身体が、軽いぜ」
何事もなかったように、バニッシュは両腕をブンブン振る。
ヴェンは、バニッシュたちに説明した。
「パパ、みんな。みんなの身体はどんな状態になっても復元する。あたしの魔法『
ヴェンは、聖女たちを睨みつける。
「あのクソ聖女どもを……ブチ殺して」
「……く、はははっ!! いいねぇ、いいねぇ……おいラーズ、どうするよ?」
「……決まってんだろ」
バニッシュは斧を、ラーズは双剣を構える。
不死者の傭兵たちもまた、武器を構えた。
「野郎ども!! クソ聖女たちを血祭りにあげようぜぇぇぇぇぇっ!!」
「「「「「ウォォォォォーーーッ!!」」」」」
不死の軍団が、聖女たちに襲い掛かった。
◇◇◇◇◇◇
「どぉぉぉぉりゃっ!!」
「ギャッ!?」
バニッシュの斧が、聖女の脳天を叩き割った。
脳がブチ撒けられ即死。この一撃を当てるのに十回は死んだ。でも、ヴェンの魔法により身体は無限に再生する。
すると、頭がカチ割れた聖女が、黒い影に包まれていく。
「パパ、もらうね」
「お? おお……どうすんだ?」
「使う。あたしの魔法、死体ならなんでも『不死者』にできるの」
「おお……でもよ、そりゃ聖女だぜ?」
「大丈夫。みんなみたいな意思は持たせないで、身体を限界まで強化して置いておくから」
すると、ヴェンの影から、たった今バニッシュが殺した聖女が現れた。
髪は真っ白になり、皮膚が赤銅色に変色している。
バニッシュたちと決定的に違うのは眼。目が真っ白になっていた。
「みんなー!! 聖女を殺したら教えてー!!
ヴェンは、わざと聖女たちに聞こえるように叫んだ。
おかげで、聖女たちの動きが鈍る……そう、恐怖しているのだ。
バニッシュは、傭兵たちに命じる。
「よっしゃ!! 聖女をぶっ殺せ!! ラーズ、数人連れてヴェンを守れ。残りはとにかく殺しまくれ!!」
「了解!!」
「「「「「オオオウッ!!」」」」」
「心配すんな!! 今のオレら無敵だぜ!! ギャァァーッハッハッハァ!!」
命令している最中に頭が吹っ飛んだが、バニッシュはなんて事のないように再生する。
順調に、実に順調に聖女狩りを行っていた。
聖女が十人ほど死に、ヴェンの周りには強化され心を失った聖女たちが守りを固める。
「んー……やっぱり死ぬと魔法は使えないのか」
聖女は、不死者になると魔法が使えない。というより、魔法そのものを失っていた。
そして、残り十人ほどになると同時に、敵が動いた。
「ひひひっ……少しは楽しめそうじゃん」
「ふん……不死というなら、死ぬまで斬ればいい。おい、あの聖女を集中して狙え」
「えー? それはあんたがやりなよ。あたしは不死者と遊ぶからさぁ? ふひひ、不死者を喰ったらどうなるかなぁ?」
「ふん……行くぞ」
ミカボシとジョカが動いた。
その後ろに、残り八人となった聖女が付き従う。
バニッシュたちは気合を入れた。
「気を付けろお前ら……強ぇぞ」
「わかってる。ヴェン、頼むぞ」
「うん。ラーズ、パパ、みんな……大丈夫。みんなは死なない、時間かかるかもしれないけど、絶対に倒せるから」
すると、にんまりとジョカが笑い、両腕の爪を伸ばす。
「くひひ……死なないオモチャなんて最高じゃん。たぁ~っぷりいたぶって───」
と、我先にとバニッシュたちに飛びかかろうとした時だった。
何かが飛んできた。
大きな何かが、ミカボシを、ジョカを、聖女たちを狙って飛んできた。
だが、飛んできた何かは、聖女の一人が造りだした『壁』に阻まれて落ちる。
「…………なんだと?」
ミカボシはつぶやく。
自分たちに向かって飛んできたのは───死体だった。
全身がねじ切れたような、ヒトの形をしていない。
───カチ、カチカチ。
生首、内蔵が飛び出た肉の塊が、ミカボシたちの傍に転がった。
それを見て、実戦経験豊富な戦闘聖女たちは顔をしかめただけだった。
───カチカチカチカチ。
「……あれは、誰だ?」
「報告にあった聖女です」
「ほう……」
ミカボシたちが見たのは───長く、黒い髪。
手には、生首があった。
───カチカチカチカチカチカチ。
その生首を、恐るべき腕力で投げつける。
だが、『
ゆっくりと近づく聖女は、嗤っていた。
カチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチ……。
そして、ミカボシはようやく気が付いた。
カチカチカチカチと聞こえていた音が……ジョカによるものだと。
「ジョカ、どうし「やばい……」……なに?」
「やばい、やばい、やばい……うそ、うそだ、うそだ……なんで、なんで」
ジョカは、真っ蒼になり震えていた。
カチカチカチカチと歯を鳴らし、壊れた玩具のように震える。
そして───こちらに向かってくる聖女が、ポツリと呟いた。
「お久しぶりです、ジョカ」
「ひ、ひひ……ひ、ヒジリ……っ!! ああ、あんた……しし、死んだんじゃ……なな、なんで」
「ふふ、決まっているじゃないですか……あなたたち『
ヒジリの髪が波打つ。
ジョカはガクガク震えていた。
そして……ミカボシですら寒気を感じた。
「く、くく……見つけた、見つけた……ジョカぁ……くふ、ふふふ……喋ってもらうぞ……一族の行方……く、ハハハハハッ!!」
バジュン、ぼじゅん、じゅぶぶっ……と、ヒジリの身体から『骨』が飛び出した。
人間ではありえない鋭利な骨が飛び出し、グギギギ……と曲がる。
飛び出した骨がヒジリの身体に巻き付いていく。四肢、身体、顔に巻き付き、真っ赤な血が骨に滴ると同時に凝固。鋭利な血の刃と化す。
血走った真っ赤な目、全身に巻き付いた骨、鉄よりも硬くなった血、両手は巨大な骨の爪となったヒジリは、完全な異業と化した。
「ジョカァァァ~~~……たぁぁっぷり苦しませてやるぅぅぅぅ……くひ、ひはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははっ!!」
この場にいる全員が、ヒジリの放つ殺気に圧倒された。
ジョカは、ガチガチに震え呼吸も荒い。
完全に、バケモノに睨まれたネズミの状態だった。
ヒジリしか使えない『
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