お金を稼ごう

 俺とヒジリ、傭兵団の皆さんは山越えをした。

 魔獣も脅威だったが、それと同じくらい山道もきつかった。

 傭兵団の皆さんがムキムキなのは、大きな荷物を載せた荷車を交代で引いているからだ。この山道でも泣き言一つ言わず、汗だくで荷車を引いていた。

 それと合わせて魔獣を狩るんだからすごい。俺も手伝おうとしたけど断られた。

 荷車を引く……よし、身体を鍛えるため俺も真似しよう。


「主、見えてきました」

「お……あれがバルバトス領土最初の町か」


 ヒジリと並んで先頭を歩いていると、最初の町が見えた。

 俺の隣にいるヴェンが俺たちの前に出て言う。


「あそこがバルバトス領土最初の町シアンよ。目立った特産品はないけど、人の出入りが多い町で、冒険者ギルドはもちろん、傭兵団の拠点とかも多くあるの。うちの『赤蛇傭兵団』のアジトもあるのよ」


 ヴェンは丁寧な説明をしてくれた。

 最初の町シアンか。覚えておこう。


「主。これからどうしますか?」

「まず、ドラゴンの素材を換金、そして装備を整えよう。矢も少なくなったし、新しい鏃も必要だしな。それが終わったら……そうだな、しばらくあの町の冒険者ギルドで依頼を受けるか」

「はい。そうしましょう」


 と、ヴェンが嬉しそうに言う。


「じゃあさ! 宿はうちのアジトから近い場所にしなよ! うちもしばらくアジトで過ごすし、一緒に遊んだりご飯食べたり」

「ヴェーン……ったく、ガキ……まぁガキか。その辺にしとけ」

「パパ……」


 バニッシュさんがヴェンの頭をポンポンする。

 そして俺に言った。


「わりーな。ヴェンの言う通り、オレらはしばらく町に滞在する。その後はいくつか仕事をこなして金を稼いで、鉱山を買うつもりだ。あー……おめーらも町に滞在するなら、ヴェンと遊んでやってくれ」

「もちろん。な、ヒジリ」

「はい。お友達ですから」

「ヒジリ……うん!」


 ヴェンはヒジリの手を取った。


「いっぱい遊ぼうね、ヒジリ!」

「はい」


 俺たちは、町に入った。


 ◇◇◇◇◇◇


 ヴェンたちと一時的に別れ、俺とヒジリは買い物に出かけた。

 確かに、ヴェンの言う通りいろいろある。武器屋で矢を補充し、特殊鏃を依頼する。

 ヒジリも何か買うか聞いたが「特にない」だった。

 そして、ヴェンに教えてもらった宿を取り、この日は装備を点検して終えた。


 翌日。

 なぜか宿にヴェンが迎えに来た。


「おはよ、二人とも」

「おはようございます」

「おはよう……いや、なんで?」


 宿屋でメシを食べていると、嬉しそうに笑うヴェンが言う。


「パパとラーズがお仕事探しに行ったの。ほかの団員とあたしはお休み」

「……で?」

「だから、遊びに来たのよ」

「いや、俺たち冒険者ギルドに行くけど……」

「じゃああたしも行く。傭兵だけど、冒険者の資格も持ってるのよ」

「えー……」

「なによ、文句あんの? 邪魔しないし、別にいいでしょ」

「……ヒジリ、どう?」

「問題ありません」


 というわけで、ヴェンを連れて三人で冒険者ギルドに向かう。目的は依頼と素材売却だ。

 シアンの町・冒険者ギルドは国境の町よりも大きく、掲示板も大きかった。

 さっそくE級の掲示板を見る俺たち。


「……国境の町とそんなに変わんないな」


 掃除や買い物などの雑用メインだ。

 掲示板を眺めていると、ヴェンが言う。


「あ、見てみて。あれ……スライム駆除だって」

「スライム?……なんだそれ?」

「んー……ゲル状の魔獣。こいつの特徴はね、森とか平原じゃなくて町の下水とかに住み着くの。排水口を詰まらせたりする原因だから、さっさと駆除しないといけないの」

「ふーん。強いのか?」

「……ま、あんたらなら問題なし。ドラゴンを狩るような奴だしね」


 ヴェンが苦笑する。

 というわけで、スライム駆除をすることにした。

 依頼書を受付に提出し、昨日ヴェンから別れ際にもらったドラゴン素材を売却する。

 査定に時間がかかるということで、先にスライム駆除をすることにした。


「じゃ、この町の下水道に行くわよ」

「おう……って、なんでお前が仕切ってるんだ?」

「別にいいでしょ? ね、ヒジリ」

「私は主に従います」


 ヴェンの案内で、町を流れる川近くにある大きな橋のふもとへ。

 橋から川べりに降りる階段の下に、大きな穴……下水へ通じる道があった。

 ヴェンは、松明に火をつける。


「カンテラでもいいけど、おすすめは松明。スライムは火に弱いからね」

「なるほど。さすがだな」

「えへへ。じゃ、行くわよ」


 ヴェンの案内で下水道へ。

 なぜか下水道に詳しい……なんて思っていると。


「実は、何度かスライム駆除してるのよね。下水道なら任せて」

「なーんだ。そうだったのか」

「ふふ、先輩に任せたまえ」


 ヴェンの先導で進むこと五分……俺は『鷹の目』で下水の先を見る。


「……なにかいるな」

「……見えないけど」

「前方80……なんだこれ?」


 俺の目には、ドロドロした何かが地面を這っているのが見えた。

 暗いから色まではわからないが、どうも薄い水色っぽい気がする。

 そのままヴェンは全身。件のネバネバの近くまで来た。


「あ、これがスライムよ。キモイでしょ?」

「確かにキモイな……」

「ネバネバですね」

「スライムの弱点は火、それと『核』よ。ほら、ネバネバの中に小さな玉があるでしょ? それがスライムの命みたいなモノよ」


 ヴェンはスライムに松明を近づけると、スライムのネバネバがじゅわーっと溶けた。

 残ったのは『核』で、ヴェンはそれを回収する。


「スライムの核、安いけど売れるのよ。十個も集めれば三人でご飯食べれるくらい」

「へぇ~……なんか腹減ってきた」

「ごはん……」

「じゃ、やりましょう。二人も松明持って!」


 俺たち三人は、ヴェンの案内で下水道中のスライムを狩った。

 核は百個ほど集まり、けっこうなスライムが駆除できた。

 

「こんなもんかしらね。じゃ、帰ろっか」


 下水道を出てギルドへ。

 スライムの核を受付に提出し報告、ついでに核は売却した。

 報告を終え、ドラゴン素材の査定も終わり売却しカードに入金した。

 気が付くと、夕方になっていた。


「よし! 今日の依頼は終わり。さっそくご飯行きましょ!」

「いいけど……お前、帰らなくていいのか?」

「今日は休みって言ったじゃん。ほらほら、行くわよ!」

「主、食事は大事です。行きましょう」

「……まぁ、いっか」


 ヴェンとヒジリに引っ張られ、俺は飯屋へ向かった。

 これが、この町で一番楽しい思い出となった。

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